AOR歌謡レビュー

石川秀美の「16・祭」はポップなサマー・ソングだらけの傑作アルバム【シティ・ポップ名盤】

石川秀美のアルバム16祭

今回は1983年に発売された石川秀美の2ndアルバム「16・祭」を紹介します。

本盤は、楽曲の7割を松田聖子の1stアルバム「SQUALL」の全作曲に携わった作曲家・小田裕一郎が手掛けています。

ポップなサマー・ソングづくしの本盤は「SQUALL」の音が好きな人にはハマること間違いなしです。

どんな作品か詳しく見ていきましょう。

石川秀美「16・祭」とはどんな作品?

「16・祭」の発売日は1983年5月1日。初夏に合わせて、夏を意識した楽曲ばかり収録されています。

ちなみに1983年5月1日といえば、石川秀美と同じく「花の82年組」と呼ばれた82年デビューのアイドル・早見優の3rdアルバム「LANAI」の発売日。

意外と知られていませんが、この同日対決、実は初回の売上では石川秀美が勝っているんです。

「16・祭」はオリコンチャートで週間最高4位を記録しました。

対する「LANAI」は5位です。

ただ、「LANAI」はあとからジワジワと人気が出ました。

なぜそんなに注目されるのかといえば、作家陣に筒美京平がいたから。

つまり「LANAI」は、筒美京平参加作品としての付加価値が高くついたのです。

一方で「16・祭」はどうかというと、現在CDも出ていず音楽配信サービスでの配信もなし。

筒美京平が作曲家としてすごいことは否定しようがありませんが、一体この差は何なのか?と首をかしげてしまいますね。

「16・祭」がそこまで評価に値しない作品なのか、と。

「16・祭」は目立たないアルバムながら、今こそシティ・ポップの視点から聴くべき作品だと強調しておきます。

シティポップ好きなら中古盤をゲットして損はないはずです。

石川秀美「16・祭」の聴きどころ

本盤の聴きどころは次の3つです。

  • あどけなさとハツラツさ全開の歌声
  • シティ・ポップとウエストコースト風サウンドの清涼感
  • 小田裕一郎の傑作ばかり

ひとつずつ見ていきましょう。

あどけなさとハツラツさ全開の歌声

1980年代の石川秀美といえば「元気いっぱい」「健全」といったイメージがありました。

歌声もそのイメージ通りにハツラツです。

本盤ではさらにそこに「あどけなさ」が感じられます。

ただただ初々しく、ハツラツに歌う。そんな計算や演出のない自然体の歌が聴けるのです。

シティ・ポップとウエストコースト風サウンドの清涼感

本盤の収録曲のほとんどが、ハードなギターが入ったウエストコースト風サウンドとメロウなシティポップ・テイストに仕上げられています。

こうしたサウンド設計もアルバム全体のアクティブなムードにつながっています。

小田裕一郎の傑作ばかり

本盤収録曲の7割を手掛けたのは、松田聖子の1stアルバム「SQUALL」の全作曲に携わった作曲家・小田裕一郎。

そのためか、「SQUALL」の世界観を継承しつつさらに発展させた洗練度の高い楽曲がそろっています。

シティポップやAOR歌謡に興味があるなら必聴です。

石川秀美「16・祭」のおすすめ曲

石川秀美「16・祭」のおすすめ曲を紹介しましょう。

【1 夏色の場面】

小田裕一郎作曲の「南太平洋~サンバの香り~」の姉妹ソングともいうべきポップなサマー・ソング。

楽曲の構成が「南太平洋~」からより洗練されたとも感じられます。

「夏服~」から分数コードで展開するサビもいい。

石川秀美のハツラツとした歌声が楽曲のもつピーカン成分をより高めています。

80年代アイドルのサマー・ソングでランキングを作るなら、必ず上位に入れたい一曲です。

なお作詞は竜真知子で、この年の12月には小田裕一郎との作詞作曲タッグで森尾由美の「今日から恋人」という名曲も生み出しています。

【3 栞】

テスト前に借りたノートに白すずらんの栞をはさんで「あなた」に返したいと歌う青春ソング。

抑えた歌と思わせて「いつも いつも ああ あなたを見てたのに…」で思いをぶつけるように歌う。

サビのピッチがやや不安定なものの、あどけなさとハツラツさが勝っています。

【4 トマト色DREAMING】

南沙織の「17歳」が明確に引用されていて、本盤のタイトル「16・祭」の意味がここでわかります。

サビ直前の「キラキラ!」の発声が爽快。

【5 想い出FOREVER】

マイケル・フランクス「Antonio's Song (The Rainbow) 」をイメージしたと思われる楽曲。

マイナーセブンスで進行するボサノバ。これも小田裕一郎作品です。

【6 JUMPIN’ IN THE SEASON】

イントロのシンセでピコピコした音に展開するかと思いきや、TOTO風のハードなギターが鳴ってウエストコースト風サウンドへ。

サビのコーラスから70年代歌謡曲の匂いが強めに感じられます。

【それは…ハート&ハート】

小田裕一郎の書いたバラードベスト5に入る楽曲。

カーペンターズ「We've Only Just Begun」のようなA&Mレコード的な世界観を意識した松井忠重によるアレンジが楽曲のよさを引き立てます。

1 夏色の場面 作詞:竜真知子/作曲:小田裕一郎/編曲:戸塚修
2 カポネのように 作詞・作曲:松宮恭子/編曲:松井忠重
3 栞 作詞:麻木かおる/作曲:小田裕一郎/編曲:松井忠重
4 トマト色DREAMING 作詞・作曲:松宮恭子/編曲:大谷和夫
5 想い出FOREVER 作詞:クロエジュン/作曲:小田裕一郎/編曲:松井忠重
6 JUMPIN’IN THE SEASON 作詞:竜真知子/作曲:小田裕一郎/編曲:大谷和夫
7 涙のペーパームーン 作詞:麻木かおる/作曲:小田裕一郎/編曲:大谷和夫
8 ふたりきりLOVE LAND 作詞:伊藤アキラ/作曲:森田公一/編曲:戸塚修
9 Hey! ミスター・ポリスマン 作詞・作曲:松宮恭子/編曲:大谷和夫
10 それは…ハート&ハート 作詞:クロエジュン/作曲:小田裕一郎/編曲:松井忠重

石川秀美のプロフィール

ここで石川秀美のプロフィールを紹介しておきます。

石川秀美は1966年7月13日生まれ。

1981年に第2回西城秀樹の弟・妹募集全国縦断オーディションで優勝したのをきっかけに芸能界入りを果たしました。

デビュー当時のキャッチフレーズは「さわやか天使」。

「花の82年組」と呼ばれたアイドルの一人でもあります。

1990年、薬丸裕英との結婚を機に引退。

最後に主演したドラマは「おむこさん」。主題歌「Lucy」も歌いました。

おわりに

今回は1983年5月1日に発売された石川秀美の2ndアルバム「16・祭」を紹介しました。

本盤の聴きどころは次の3つ。

  • あどけなさとハツラツさ全開の歌声
  • シティ・ポップとウエストコースト風サウンドの清涼感
  • 小田裕一郎の傑作ばかり

【石川秀美「16・祭」の総評】
※星5つで満点

時代性 ★★★★
演奏  ★★★
独創性 ★★
楽曲  ★★★★
歌   ★★

現在、CDは廃盤、音楽配信サービスでの配信もありません。

気になったら中古盤を探しましょう。

  • この記事を書いた人

kinuzure

人生の大半の時間を中古盤DIGについやしてきたポップスマニア。いまだに大人になれていないクリスタルな四十路男。【来歴】1980年代、幼少期にAORと歌謡曲を聴いて育つ。 海外のAORを数多く聴いていたものの、あるとき「AOR歌謡」を発見。強く惹かれる。【好物】レコード/古本/1980年代/生クリーム/コーヒー/ウィスパーボイス/ディミニッシュコードの響き

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