1990年代初頭に現れ、実力者だったにもかかわらずいまだ過小評価を受けているシンガー・AKEMI。
今回はその2ndアルバム「SECOND WIND」(1991年)を紹介します。
AKEMIってどんな人?
まずはAKEMIがどんな人なのか、プロフィールを見ていきましょう。
AKEMIは福岡県出身のシンガーです。
一般的には「花のあすか組!2~ロンリー・キャッツ・バトルロイヤル」挿入歌(1990年)や、「銀河英雄伝説外伝」の主題歌(1998年)の歌手として知られています。
歌手を志すきっかけは、「We Are The World」 に感銘を受けたこと。
10歳からボーカルトレーニングを開始し、1990年にワーナーからデビューします。
以降、ワーナーブラザーズ・シスターズ(ワーナーパイオニア3人娘)として、千堂あきほ、広田恵とともに全国を行脚。
1998年からは、ボストンのバークレー音楽大学で作曲/パフォー マンスを学ぶため渡米しています。
米国でボーカルトレーナーから受けたプライベートレッスンによってジャズやゴスペルの素養を身につけ、現地でも歌手活動を開始。
ニューヨークのゴスペル・クワイアに所属しながら、現在は「AKEMI Lady-A」名義でニューヨークと福岡を中心に活動しています。
AKEMI「SECOND WIND」の聴きどころ
今回紹介するAKEMIの「SECOND WIND」は、1991年発表の2ndアルバムです。
本盤の聴きどころは次の3つ。
- コントロールに長けた歌
- 作曲家・都志見隆の貴重な生歌
- 山川恵津子の卓抜な編曲
ひとつずつ見ていきましょう。
コントロールに長けた歌
AKEMIはコントロールに長けたシンガーです。
タイム感と音程、トーン、声質。これらを意のままに操り、豊かなボーカル表現をものにしています。
とくにその手腕が発揮されているのが、ハイトーンの滑らかなつなぎ方。
ハイトーンボイスが流行った90年代は、えぐめのハイトーンの歌い手も多く存在していましたが、AKEMIはエレガントなハイトーンを聴かせてくれます。
同期デビューの障子久美と同格か、それ以上の実力があったのではないでしょうか。
作曲家・都志見隆の貴重な生歌
作曲家・都志見隆が生歌を披露しているのも本盤の聴きどころのひとつです。
といっても、よほどのシティ・ポップ/AOR歌謡マニアでなければ、それを聴いて何を見出せばいいのか首をかしげるでしょう。
作曲家の歌声を聴けば、AORやシティ・ポップをどれくらい意識しているかがわかるのです。
たとえば、同じく作曲家の中崎英也は「Shadow Play」というソロ作を発表しています。ソロ作で生歌を聴いて、中崎英也はAORへの意識が高いと感じられました。
都志見隆は、キワモノシンガー・鈴木隆夫時代と、「忍者戦隊カクレンジャー」の主題歌(「トゥー・チー・チェン」名義)以外に自身が歌った曲を残していないので、ポップスのフィールドでどんな歌を聴かせてくれるのか期待が高まるわけです。
本盤のデュエット曲「TRUE LOVE」を聴いてみると、はたしてAOR歌謡マナーで歌っていました。
都志見隆のこうした生歌は貴重で、国分友里恵×羽場仁志のデュエットと同じくらいの稀少価値があります。
山川恵津子の卓抜な編曲
本盤では、山川恵津子の卓抜な編曲センスも聴きどころのひとつです。
とくに顕著なのが「FOLLOW WIND」と「SECOND WIND」の2曲。
「FOLLOW WIND」はまばゆさとワクワク感、「SECOND WIND」はすがすがしさとウキウキ感の演出に成功しています。
AKEMIのブラックミュージック志向もより鮮明になっているので、その点でもこれらの曲を山川恵津子が手掛けたのは正解だったといえます。
AKEMI「SECOND WIND」全曲解説
AKEMI「SECOND WIND」の収録曲を全曲解説していきましょう。
1 KEEP ON DREAM
作曲:都志見隆・編曲:山川恵津子のコンビで作られたドライブのはじまり的な一曲。
Aメロのゆったりした歌い出しから無理のない滑らかなハイトーンにつなげる自然な歌唱を披露しています。
2 STARDUST LOVERS
作編曲:都志見隆による80年代初頭のマーティ・バリンをほうふつとさせるシティポップ/AOR歌謡的な曲。
サビの力加減が適切で、繰り返し聴いても飽きさせません。
3 TRUE LOVE
作曲家・都志見隆とのデュエット曲。
作曲家とシンガーの組み合わせということで、オリビア・ニュートン・ジョン&デヴィッド・フォスターの「The Best of Me(君にすべてを)」をイメージしたのか、ツボを押さえたAOR歌謡バラードに仕上がっています。
船山基紀の最小限の装飾で曲のよさを際立たせる編曲も見事です。
サビのAKEMIのハイトーンと間奏のフェイクが映える。
4 タオルを投げないで ~Don't toss in the towel~
作編曲:都志見隆によるライトなブギー。
サビのボーカルがジャストな力加減です。
5 FOLLOW WIND
作曲:都志見隆・編曲:山川恵津子による本盤のハイライト。
この曲でもAKEMIのトーンコントロールの巧みさを感じさせます。
とくに「Hold me in follow wind」の「Hold」をウィスパー気味に歌うところが絶妙。
6 SECOND WIND
80~90年代の日本でモータウン・ビートといったら、シュープリームスの「キャンハリ(You Can't Hurry Love)」か「Stop! In the Name of Love」が常套句。
ところがこの曲は、同じシュープリームスでも「Baby Love」のスタイルを使用しています。
編曲を担当した山川恵津子とAKEMIが話し合って作られたのでは?そんな想像をしながら聴くとおもしろい。
ダイアナ・ロスへのリスペクトを示すかのようなトーンで歌うAKEMIのボーカルと、山川恵津子のコーラスがなんと馴染みのいいことか。
7 YOU GOT A CHANCE
イントロからとんでもないグルーヴだと思ったらそれもそのはず、以下のメンバーが演奏していました。
- ギター:矢島賢
- ドラム:山木秀夫
- ベース:伊藤広規
- キーボード:永田一郎(エルトン永田)・大谷和夫
ただ、この曲に関してはボーカルをもっと振り切ってもっとハイトーンが伸びてもよかったのでは。
もしかしたらベテランミュージシャン達の迫力ある演奏に圧倒されたのかもしれません。
サビの飛躍感が不足しています。
8 SUNSET BEACH MEMORY
ブレバタとトライアングルサウンドをかけ合わせたかのような夕暮れビーチサイド・ソング。
リズムを支えるスパンダー・バレエなギターバッキングと、後半のコーラス「ババババンババン」のそこはかとないダサさが素敵。
9 ALL OVER AGAIN
AKEMIのハイトーンコントロールの巧みさが光るバラード。
この曲も「YOU GOT A CHANCE」と同じメンバーで演奏しています。
10 言い訳してよ
ハードなギターが鳴る演奏を背に、失恋の弱目を派手な歌唱でなくほんの少しの起伏で表現するボーカルが味わい深い。
おわりに
今回は、AKEMIの2ndアルバム「SECOND WIND」(1991年)を紹介しました。
本盤の聴きどころは次の3つ。
- コントロールに長けた歌
- 作曲家・都志見隆の貴重な生歌
- 山川恵津子の卓抜な編曲
【AKEMI「SECOND WIND」の総評】
※星5つで満点
時代性 ★★★
演奏 ★★★
独創性 ★★
楽曲 ★★★
歌 ★★★★
本盤は音楽配信サービスでも聴けます。
気になったら一聴を。