今回は今津真美の2ndアルバム「Silhouette '90」を紹介します。
1stの「Mascara(マスカラ)」は中古版で出回っていますが、「Silhouette '90」は市場で見かけることがほとんどありません。
所有してる人は日本中に100人もいないのではないでしょうか。
本盤はシティ・ポップ系のディスクガイドにも載っていない貴重かつ入手困難な一枚です。
どんな作品か確認していきましょう。
今津真美「Silhouette '90」とはどんなアルバム?
1stアルバムでCDジャーナルから「ウドのマヨネーズあえ」と不名誉な称号をいただいてしまったシンガー・ソングライターにしてピアニストの今津真美。
2作目の本盤は、そんな今津真美が「ウドマヨ」のイメージから脱却する足がかりになったアルバムです。
しかし残念ながら今津真美にこれ以降の作品はなく、結局「ウドマヨ」のシルエットを残したままシーンを去ってしまいました。
本盤はセールスが伸びず、ほとんど市場に出回っていません。
国内でこのアルバムを持っている人は50人くらいじゃないかと。それほどレアな作品です。
私は2000年代に入手しましたが、いまでは入手困難。見かけたら絶対に買うべきです。
作品自体も1stより完成度が高いので、聴いて損はないでしょう。
今津真美「Silhouette '90」の聴きどころ
本盤の聴きどころは次の3つ。
- バックの演奏を尖らせたことでピアノが溶け込んでいる
- 伸びやかになった歌
- 実験的な音作り
ひとつずつ見ていきましょう。
バックの演奏を尖らせたことでピアノが溶け込んでいる
1stは楽曲とボーカルに合わせた演奏をバックのミュージシャンがしていたため、結果的に今津真美の突っ走ったピアノが浮いていました。
一方で2ndの本盤は今津真美のピアノを基準にだいぶ攻めた演奏をしています。
そのため、今津真美のピアノが浮かず「アグレッシブな作品」として成立しているのです。
本盤の主な参加ミュージシャンは次のとおり。
- ギター 鳥山雄司
- ベース 美久月千晴
- アコースティックギター 吉川忠英
- ドラム 青山純
- パーカッション ペッカー
- サックス 本田雅人
- トランペット 荒木敏男
- コーラス EVE
- ボーカル ウォーネル・ジョーンズ
バックの演奏が尖って今津真美のピアノも1stほど悪目立ちしていません。
キーマンはドラムの青山純でしょう。
青山純は80年代に山下達郎の「SPARKLE」で、イントロの個性強すぎな「達郎カッティング」に負けないほどのフィルインを披露しています。
さらに90年代にはジョン・キング、大友良英、近藤達郎ら実験音楽系のミュージシャンと「ブラッド・バス」を結成するなど、個性の強いミュージシャンと対等に渡り合っています。
つまり百戦錬磨のドラマーなので、今津真美の独奏的なピアノにだって押されないわけです。
青山純主導でバックの演奏にアグレッシブなカラーを引き出している。
本盤の音からはそんな印象を受けます。
伸びやかになった歌
歌がさらに伸びやかに軽くなり、シャカタクのジル・セイワードのボーカルに近づきました。
ピアノと相性のよい歌声に進化しています。
演奏全体を聴かせるフュージョン寄りのシティポップには、こうした楽器となじみのいい声が活きます。
実験的な音作り
本盤は1stより音作りに実験・冒険が感じられます。
たとえば「ホワントでルフラン」はポリリズムを取り入れた楽曲。
歌詞に「変拍子」という言葉が出てくることから、今津真美の狙いに沿って青山純らがリズムを複雑にしていったと考えられます。
2020年代のポップスにおいてはポリリズムぐらいザラに聴けるようになりましたが、1990年にはまだ珍しく、かなり攻めた一曲だったと言えるでしょう。
1stから続くフュージョンのテイストに実験的・冒険的な要素が加わっています。
ちなみに前作は複数のスタジオでレコーディングされましたが、本盤は東京・渋谷区桜丘町の坂の上にあったヤマハ・エピキュラススタジオだけでレコーディングされています。
今津真美「Silhouette '90」のおすすめ曲
本盤のオススメ曲を紹介しましょう。
【2 Urban Bedouin】
イントロからあやしい雰囲気が漂う楽曲。
バックにくっきりした音を重ねたため、途中で入るピアノが違和感なく溶け込んでいます。
ボーカルの脱力感が曲名どおり都会の砂漠感を演出。
【3 ホワントでルフラン】
イントロのリズムマシンが3拍子を刻んでからポリリズムへと展開。
青山純のアグレッシブなドラムと各楽器の音色を先鋭化したアレンジがピアノと調和した曲ですが、AOR度は後退しています。
【5 My Eyes Only】
ブラスとギターカッティングによる音圧強めのイントロに乗せ、ボーカルはエグめの低音と高音を聴かせます。
アシッドジャズのバンドが演奏しそうなファンクのようで、展開部あたりに楽曲の癖の強さが出て、今津真美らしさ全開です。
後半、ベースやギターが先に動いて今津真美のソロを制止しているようなのがおもしろい。
ウォーネル・ジョーンズのラップめいたボーカルが途中で入るのも90年代らしい。
【6 Purple Sky】
シティ・ポップ×GiRLPOPな一曲。
今津真美らしいフュージョン的転調やブルーノートは控えめ。
【7 Sailin' Masquerade】
ニュージャック・スイング風のビートにボーカルでエグめのブルーノートをはさむイカつい楽曲。
ニュージャック・スイングとアシッド・ジャズをかけ合わせた楽曲は当時多かったものの、こんなにピアノが中心になることはありませんでした
それだけに、この路線を突きつめれば今津真美独自のポップスができあがった可能性があり、もう一作出していればと悔やまれます。
間奏はやはりピアノ弾きまくり。
今津真美ってどんな人?
今津真美の詳しいプロフィールは今や確認できません。
調べるとヤマハのコンクール出身といった情報が出てきますが、資料もなく裏がとれないのが実状です。
1976年9月19日に開催された「第5回 ヤマハ・ジュニア・オリジナル・コンサート'76」で特別優秀賞を受賞したピアノ奏者に「今津真美」の名は確認できます。
76~79年にかけて同コンテストに連続出場していて、その後ヤマハに所属したことからも同一人物の可能性が高いでしょう。
ただ、作品を聴くかぎり、ピアニスト兼ボーカリストだったことは確かです。
作品数はたった2枚。本盤と1stアルバム「Mascara(マスカラ)」のみです。
おわりに
今回は今津真美の2ndアルバム「Silhouette '90」を紹介しました。
本盤の聴きどころは次の3つ。
- バックの演奏を尖らせたことでピアノが溶け込んでいる
- 伸びやかになった歌
- 実験的な音作り
【今津真美「Silhouette '90」の総評】
※星5つで満点
時代性 ★★
演奏 ★★★★
独創性 ★★★★★
楽曲 ★★★
歌 ★★★
現在、CDは廃盤、音楽配信サービスでの配信もありません。
気になったら中古盤を探しましょう。