AOR歌謡レビュー

天野歩美「贈り物があるの」は納涼感×ガールポップが楽しめるアルバム|シティポップ裏名盤

天野歩美のアルバム「贈り物があるの」をポップスマニアがレビュー

今回ご紹介するのは、1992年にガールポップのど真ん中を狙って作られたにもかかわらず、さほど注目を集めなかった天野歩美の1stアルバム「贈り物があるの」。

サザン/桑田佳祐ゆかりのミュージシャンが参加した納涼感(クール・サマー・フィーリング)のあるアルバムです。

どんな作品か詳しく見ていきましょう。

天野歩美ってどんな人?

まず、天野歩美がどんな人なのかをおさえておきましょう。

天野歩美は1984年、小室哲哉の元妻・大谷香奈子とアイドルユニット「キララとウララ」でデビュー。

当時の芸名は「天野なぎさ」で、同ユニット解散後に「天野歩美」としてシンガー・ソングライターに転身しました。

天野歩美名義では、本盤と2ndの「恋を抱きしめたい」(1993年)の2枚のアルバムを発表しています。

とくに「恋を抱きしめたい」は岩崎元是が編曲で参加したこともあって、シティポップ・マニアに人気が高い作品。

同作収録の「遠い空からI Love You」は、イントロのカウントから、メジャー⇒6⇒M7⇒6のようなコード進行まで、完全な大瀧詠一オマージュになっています。

それが天野歩美の意図だったのか、岩崎元是の遊び心なのか、今となっては不明です。

天野歩美「贈り物があるの」の聴きどころ

本盤「贈り物があるの」は1992年に発売された天野歩美の1stアルバム。

1990年代のポスト渋谷系ポップスを支えた音楽プロデューサー集団「GO-GO KING RECORDERS」を中心に制作されました。

発表時期がガールポップ全盛期だったのと、天野歩美がアイドル上がりのシンガー・ソングライターだったためか、ガールポップ度数高めな音を意識して作られています。

本盤の聴きどころは、サザン・オール・スターズ的な納涼感(クール・サマー・フィーリング)が随所に散りばめられたサウンドです。

そうしたエッセンスが加わった理由は2つあります。

ひとつは、KUWATA BANDで名を挙げた河内淳一が楽曲提供している上にギターとコーラスでも参加したこと。

もうひとつは、サザンのサポメン・片山敦夫が編曲で参加したこと。

これら2つによって、サザン的な納涼感が醸し出されたのでしょう。

サザン的な納涼感×ガールポップテイストが本盤の持ち味なのです。

天野歩美「贈り物があるの」のオススメ曲

天野歩美「贈り物があるの」のオススメ曲を紹介していきましょう。

オレンジの夏

ブリージーなコーラスからスタート。浮遊感のあるシンプルなAメロにつながり、Bメロで静かに歌メロが展開します。

サビの2周目でコードをひねっているのがポイント。

贈り物があるの

90年代フュージョン的なイントロ、そこからピアノ的な発想のAメロ・Bメロへ。

トライアングルプロダクション風のコーラスが途中にはさまるあたりに、シティ・ポップを感じます。

ただ、BPMを落としてバラードアレンジにしたほうがよかった気も。

各駅停車

クリストファー・クロスを思わせるイントロからスタート。

2周目に行く前に、スタイルカウンシルの「My Ever Changing Moods」が挿入されるアレンジに思わず二ヤリ。

それはそうと、サビメロにハモリコーラスを入れたほうが楽曲のよさをもっと引き出せたはず。

ハッピーデイズが呼んでいる

前のトラックからスタイルカウンシルを引きずっているのか、イントロからそれ風の「フー!ハ~ウー!」というコーラスが。

ガールポップな世界観をファンクなギターカッティングが支えているのは、2020年代前後のアイドルソングのよう。

不思議な雨の降る夜

加納直喜の提供曲。ロッカバラード風の3連に転調のスパイスを加えた酔える曲。

松原幸広のストリングスアレンジも秀逸で、本盤のハイライトともいうべきクオリティに仕上がっています。

ストリングで埋めつくされ、新たにフレーズを入れる余地がなさそうな中盤で、一瞬の隙間に松原正樹が最小限の手数で圧巻のギターフレーズを披露。

Melody Town

河内淳一の提供曲。

クラビネットを効かせたシュガー・ベイブ/アイズレーBrosなイントロから、ガールポップ的サニーサイドなAメロへ。

サビの歌メロハモリ&ゴスペルなコーラスアレンジがたまらない。シャッフル好きは必聴。

今が1番好き

これも河内淳一の提供曲。

哀愁を誘うサビの歌メロを聴くと、河内淳一のこういったセンスに桑田佳祐が惹かれたのだとわかります。

間奏でスティーヴン・ビショップの「Save It For A Rainy Day」(Eクラプトン)ばりの短い河内ギターソロが炸裂。

あなたを愛したい

サビのカウンターメロディの入れ方はビーイングを視野に入れたのか。

遠くで響くようなサイン波の音色の使い方がおもしろい。

おわりに

今回は天野歩美の「贈り物があるの」(1992年)をご紹介しました。

本盤の聴きどころは、サザン的な納涼感×ガールポップ。

【天野歩美「贈り物があるの」の総評】
※星5つで満点

時代性 ★★★
演奏  ★★★
独創性 ★★
楽曲  ★★★
歌   ★★

本盤はすでに廃盤、音楽配信サービスでの配信もありません。

気になったら中古盤を探しましょう。

あわせて読みたい
あわせて読みたい
あわせて読みたい
あわせて読みたい
  • この記事を書いた人

kinuzure

人生の大半の時間を中古盤DIGについやしてきたポップスマニア。いまだに大人になれていないクリスタルな四十路男。【来歴】1980年代、幼少期にAORと歌謡曲を聴いて育つ。 海外のAORを数多く聴いていたものの、あるとき「AOR歌謡」を発見。強く惹かれる。【好物】レコード/古本/1980年代/生クリーム/コーヒー/ウィスパーボイス/ディミニッシュコードの響き

-AOR歌謡レビュー