AOR歌謡レビュー

島田歌穂「I'm just a woman」は楽曲・歌・演奏のすべてが高水準のアルバム【シティ・ポップ名盤】

島田歌穂の画像1

島田歌穂の「I'm just a woman」は、歌、楽曲の水準、演奏のどれをとっても非の打ち所がないシティ・ポップの名盤。

なのに本盤は、シティ・ポップやAOR関連のガイドブックや特集で取り上げられていません。

埋もれた名盤が日の目を見るよう祈りつつ、本盤を紹介していきます。

島田歌穂「I'm just a woman」とはどんな作品?

本盤は1991年発売、島田歌穂の3枚目のオリジナルアルバム。

提供曲のクオリティー、表現力の高い歌、グルーヴ抜群の演奏の3拍子揃った作品です。

これだけでも十分だと思えますが、さらに録音も素晴らしい。

なにせエンジニアは腕利きの宮本茂男。ポップスマニアなら、この時点で音のよさは担保されたと思うはずです。

島田歌穂「I'm just a woman」の聴きどころ

本盤の聴きどころは次のとおり。

  1. 作家陣が本気の楽曲を提供している
  2. 的確な歌唱表現
  3. アンニュイな雰囲気

ひとつずつ詳しく見ていきましょう。

作家陣が本気の楽曲を提供している

本盤の中心となる作家陣は羽場仁志、小林明子ら80年代に頭角をあらわしたソングライター。

彼らが実に気合いの入った楽曲を提供しています。

島田歌穂の父親が、岡崎友紀の「風に乗って」の作曲などで知られる音楽家・島田敬穂だから、業界で後輩にあたる作家陣は手を抜けなかったのかもしれません。

しかしそれだけではないはず。島田歌穂自身の歌のうまさにも、作家陣は張り合いを感じたのでしょう。

歌える人だから渾身の一曲を渡してみたい、と。そんなふうに思ったのではないかと推測します。

的確な歌唱表現

島田歌穂といえば、アイドル歌手としてデビューしながらすぐにミュージカルの世界に進んだ経歴の持ち主。

本盤の時点ですでにその道のプロになっていたせいか歌唱表現は抜群です。

ここでは熱唱しすぎず抑えすぎない、ちょうどいい加減の歌が聴けます。

しかも一曲ごとの世界観を忠実に演じる姿勢が強くあるため、歌唱力自慢になっていません。

作家陣が楽曲に描いた風景を的確に理解して歌っているのです。

アンニュイな雰囲気

AOR歌謡/シティ・ポップにとって大切なのがアンニュイな雰囲気。

本盤は、全体をとおしてアンニュイさが漂っています。

  • 楽曲自体がミディアムからスロー・テンポにまとめられている
  • 直接的にアンニュイな気分を描いた歌詞がある
  • 松原正樹らの演奏に無駄な力が入っていない

こうした要素が相まってアンニュイさが醸し出され、聴くたびにリラックス気分をもたらしてくれます。

島田歌穂「I'm just a woman」のオススメ曲

【1 I'm just a woman】

オープニングを飾るのは、小林明子によるエレガントな一曲。

島田歌穂みずから書いた歌い出しの歌詞「気だるい ため息まじり Mid-night/星くず たどって走る High-way」も、アンニュイなムードを後押ししています。

【2 What do you want】

羽場仁志によるブルージーな楽曲。

ブルーノートを歌いこなしつつ熱唱しすぎない、ちょうどいい歌い加減が巧みです。

サビ前からメロウな展開へ。途中のビートルズ「Drive my car」の引用がダサかっこいいのもポイント。

【3 Somebody】

小林明子お得意のカーペンターズ調の楽曲。

イントロのオーギュメントがオールドタイミーです。

しっかり楽曲の意図をくんだ歌いかたをしているのはさすが。

【5 Cruise of Love】

羽場仁志作曲。

「波に揺られ/夢を見てる」の歌詞にあたるディミニッシュが気持ちいい。

波のゆらめきがコードで表現されています。

けっして派手ではないものの、上質な楽曲。

【7 冬の雨】

低音で声にわずかにビブラートをかける表現はすばらしい。絶品のAOR歌謡バラード。

【8 ウィークエンド・レディ】

ムーディーな「After You've Gone」の引用からスタートする都志見隆の傑作。

サビの木戸やすひろ・比山貴咏史・広谷順子によるコーラスも、楽曲の心地よさを何倍にもアップさせています。

【9 風のままに】

先日亡くなった川口真による名曲。

サビのさりげないクリシェに品位の高さを感じます。

【10 道】

締めは馬飼野康二作曲によるバラード。

強弱の幅をおさえて一本の線をつなぐような歌い方が、「道」というテーマをうまく表現しています。

島田歌穂のプロフィール

島田歌穂は1963年、東京生まれ。

父は音楽家・島田敬穂、母はジャズ歌手・筑波嶺玲子です。

1974年から子役として活躍。

82年にミュージカル「シンデレラ」で舞台デビュー、以来「レ・ミゼラブル」など、多数のミュージカルに出演しています。

1981年に歌手デビュー。

筒美京平、なかにし礼らの楽曲提供を受けるも、1989年まではシングル曲のみでアルバムを発表していません。

1980年代後半から音楽活動にも本腰を入れ、1990年、高嶋政伸主演のTBS系ドラマ「HOTEL」の主題歌がヒット。

以降は舞台と音楽活動の両方で活躍しています。

おわりに

今回は1991年に発表された島田歌穂の3枚目のオリジナルアルバム「I'm just a woman」を紹介しました。

本盤の聴きどころは次のとおり。

  1. 作家陣が本気の楽曲を提供している
  2. 的確な歌唱表現
  3. アンニュイな雰囲気

【島田歌穂「I'm just a woman」の総評】
※星5つで満点

時代性 ★★★
演奏  ★★★★
独創性 ★★
楽曲  ★★★★
歌   ★★★★★

現在、CDは廃盤、音楽配信サービスでの配信もありません。

気になったら中古盤を探しましょう。

  • この記事を書いた人

kinuzure

人生の大半の時間を中古盤DIGについやしてきたポップスマニア。いまだに大人になれていないクリスタルな四十路男。【来歴】1980年代、幼少期にAORと歌謡曲を聴いて育つ。 海外のAORを数多く聴いていたものの、あるとき「AOR歌謡」を発見。強く惹かれる。【好物】レコード/古本/1980年代/生クリーム/コーヒー/ウィスパーボイス/ディミニッシュコードの響き

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