今回は声優として活動している小山茉美のファーストアルバム「ゆ・れ・て mami」(1982年)を紹介します。
アクの強いキャラの声を担当していた声優とは思いもつかないアダルトな声を披露した本盤は、シティ・ポップ、AOR歌謡の両面から見て完成度が高い作品です。
小山茉美「ゆ・れ・て mami」とはどんなアルバム?
ある程度の年齢の人なら、小山茉美と聞けば次のいずれかの声を思い浮かべることでしょう。
- アラレちゃん
- ミンキーモモ
- コロ助(キテレツ大百科)
じっさい、私も20年ほど前に本盤に出会ったときは、アラレちゃんの「んちゃ!」「キーーーン!」の声のイメージで聴きました。
そしたら拍子抜け。あまりにもクールに決めた声で歌っていたから。
声優、しかもアクの強いキャラ声を担当していた人との先入観をもって聴くと意表をつかれるはずです。
それほどまでに小山茉美は、本盤で子供っぽさ皆無のアダルト・ボイスを披露しています。
小山茉美「ゆ・れ・て mami」の聴きどころ
本盤の聴きどころは次の3つ。
- 佐藤健の秀逸なアレンジ
- 重厚な演奏
- 聴いていて疲れないなめらかな歌
ひとつずつ見ていきましょう。
佐藤健の秀逸なアレンジ
2020年代を生きる人に「佐藤健」と書いてみせたら、大半が俳優の「さとうたける」を思い浮かべるでしょう。
しかし昭和を生きたポップス好きの人なら、「佐藤健」を正しく「さとうけん」と読むはずです。
佐藤健は大橋純子、小野正利をはじめとした多数の歌手に楽曲提供をした作曲家。
ヤマハのLM(ライトミュージック)制作スタッフ出身の経歴を活かし、水谷麻里、増田未亜といったアイドルにも軽やかな佳曲を書いています。
- 池田聡「モノクローム・ヴィーナス」
- class「夏の日の1993」
といったヒット曲も実は佐藤健によるもの。
本盤で佐藤健は作曲のみならず編曲も担当しています。
過不足なくAORテイストを取り入れたアレンジが秀逸。
多久寅(おおのひさはる)が中心となる「多グループ」のストリングスの使い方もうまく、作品のエレガントな世界観を築き上げるのに成功しています。
重厚な演奏
本盤は、土方隆行(ギター)と高水健司(ベース)といった名手によるグルーヴと、多(おおの)グループによるストリングスが重なって静かながら厚みのある演奏が聴けます。
多グループは、1970年代〜80年代の日本の歌謡曲・ポップス界において最高峰と目されたストリングス・セクションです。
宮内庁雅楽部出身のバイオリニスト・多久寅(おおのひさはる)を中心に作られ、全盛期は1日に5か所のレコーディングスタジオを回り、毎日朝から深夜まで演奏をしていたとされています。
シティ・ポップ作品に多数参加した「JOEグループ」の加藤JOEこと加藤高志も多グループに在籍していました。
本盤の多グループの演奏は絶好調。バックから分厚い弦の音がジワジワと手前に迫ってきます。
聴いていて疲れないなめらかな歌
小山茉美の歌声はなめらかさが特徴。
それゆえに、いつどんなときに聴いても心地がいいのです。
聴いていて疲れることがない。歌手として理想的な歌声の持ち主です。
声優でこのような歌声を持つ人は珍しいでしょう。
声優は声でキャラクターを演じる職業なので、歌もキャラクター的になりがち。
ところが小山茉美の歌には則巻アラレ感は全然ありません。
ひたすらマイルドに聴き手を包むような歌声なのです。この点が多グループのストリングスとも相性抜群。
非キャラクターな歌であるがゆえに、聴いていてまったく疲れません。
小山茉美「ゆ・れ・て mami」全曲解説
【1 マイ・ワンダーランド】
佐藤健・編曲によるサンバ調のダンサブルな楽曲。
土方隆行と高水健司による盤石のグルーヴに乗せてなめらかでカラッとした歌が響きます。
【2 あなたとスローダンス】
一転してしっとりした歌へ。EVEによる「スローダンス、スローダンス」のコーラスが印象的です。
なめらかな歌声が活かされた楽曲。
【3 真夏の恋人】
佐藤健・作編曲。多グループのストリングスが効いています。
尾崎亜美を思わせるメロウな曲調。サビの同主移調コード進行でせつなさを演出しています。
【4 なぜなの】
菊地弘子作曲、戸塚修編曲によるポップなシャッフル。
ハイトーンをドライに歌うことで楽曲の軽快さが活かされています。
【5 ブルー・ブルー・レイン】
菊地弘子作曲、佐藤健編曲の3連ロッカバラード。
多グループのストリングスをバックにドライに歌う、微妙な緩急のつけかたがうまい。
【6 もういちどプロローグ】
ドン、ド、ドンのロネッツ歌謡。
同時期の須藤薫を思わせる曲調です。
サビでもう少し歌での主張があった方が良かった気がします。
【7 SUNNY AFTERNOON】
津田義彦作曲、佐藤健編曲によるグルーヴィーな楽曲。
メロウにクリシェで進行しBメロでブルージーに展開、サビはやや歌謡曲的にしっとりさせています。
肩の力を抜きながら様々な声色を操るのがうまい。
【8 BANG! BANG!】
3コード で進行する単調になりやすい楽曲ながら、抑制をきかせつつ声を張り上げる歌のうまさによって、十分聴ける曲になっています。
【9 トワイライト・トレイン】
アルバムのハイライト。曲、アレンジ、歌詞、歌のどれをとってもすばらしい。
これ一曲だけでも本盤を聴くべきでしょう。
持ち前の歌声のなめらかさによって、Bメロからの展開もしっとりさせすぎずスムーズ。
抑えたアルトボイスで楽曲のAOR度数を高めています。
これもまた佐藤健の作編曲です。
【10 LOVE IS GONE】
ラストを飾る名バラード。
タイム感の良さが光ります。
ここでも多グループのストリングスが立体感を出していていい雰囲気。
おわりに
今回は声優として活動している小山茉美のファーストアルバム「ゆ・れ・て mami」(1982年)を紹介しました。
本盤の魅力は次の3つです。
- 佐藤健の秀逸なアレンジ
- 重厚な演奏
- 聴いていて疲れないなめらかな歌
【小山茉美「ゆ・れ・て mami」の総評】
※星5つで満点
時代性 ★★
演奏 ★★★★
独創性 ★★
楽曲 ★★★
歌 ★★★★
本盤はCD化されていず、音楽配信サービスでも配信されていません。
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