今回は久野かおりの「Rosé」を紹介します。
クオリティーの高いシティ・ポップの隠れ名盤を探しているならぜひ聴いてほしい一枚です。
久野かおり「Rosé(ロゼ)」とは?
久野かおりの「Rosé」がリリースされたのは1991年。バブル末期です。
バブル末期には「パーティー終盤のリラックス感」を映した作品がいくつかあり、本盤はそのひとつです。
すでに終わりに近づいていたのを察知しながらも、奇妙に落ち着いている。そんな雰囲気が1991年にはありました。
つまり、すでにバブルの「空騒ぎ」の時期は過ぎていたのです。
本盤にはバブルという「バラ色の毎日」が終わっていく気配が音として記録されています。
久野かおり「Rosé(ロゼ)」の聴きどころ
本盤の魅力は以下の3つ。
- バブル末期のリラックスした雰囲気
- もの悲しさを感じる歌声
- ロゼワインのように芳醇で質の高い楽曲ぞろい
詳しく確認していきましょう。
バブル末期のリラックスした雰囲気
本盤は「毎日がバレンタイン」からゆったりしたスタート。
すでに1曲目から異様なほど落ち着いた雰囲気が漂っています。
聴きこむとゆったりしたムードの中に「このまま楽しい時代が続いたらいいね」という願いが込められているかのようです。
本盤に収録された楽曲中、4曲に「バラ色」「バラのように」とタイトルの「Rosé」をあらわす言葉が出てきて、ロゼワインの泡のように消えていくはかない日々を連想させます。
また、本盤のブックレットには久野かおりのこんなコメントが記されていました。
Studio Workは本当に楽しく
毎日 Wine でも飲んでいる様な
そんな気分だった
私の大好きな musicians & artists
見守っていてくれる staffs
幸せな時が過ぎて行く
幾度 夜を越えたことだろう
そしてまた 夜が明けていく
単なるレコーディングの感想といえばそれまでですが、「毎日 Wine でも飲んでいる様な そんな気分だった」は、レコーディング中の生活全般も含まれている気がしてなりません。
バブルという「バラ色の毎日」が過ぎて行く。そんな時代の移り変わりがアルバムに刻み込まれている、というメッセージに受け取れるのです。
もの悲しさを感じる歌声
久野かおりは、物悲しさを感じさせる歌声の持ち主です。
ウィスパーボイスに徹しているわけではないものの、しっとりした声質に憂いが含まれています。
たとえば代表曲「Adam & Eve 1989」はバブル期の浮かれ気分が反映されていながら、久野かおりの声で歌うと、かえって騒いでいる時代のむなしさが伝わってくるのです。
ロゼワインのように芳醇で質の高い楽曲ぞろい
本盤は、ロゼワインのイメージそのままに、芳醇で質の高い楽曲がそろっています。
なぜそんな質が高いかというと、久野かおりみずから手掛けた8曲にあらわれた音楽的教養の高さと育ちのよさに、土岐英史の編曲でジャズの要素が足されたから。
アルバム全体に気品が漂っています。
久野かおり「Rosé(ロゼ)」のオススメ曲
久野かおり「Rosé(ロゼ)」のオススメ曲を紹介します。
【1 毎日がバレンタイン】
EPO「エンドレス・バレンタイン」、松任谷由実「Valentine's RADIO」、そしてこの曲をあわせて、私はバブル期の3大バレンタイン・シティポップと呼んでいます。
ボビー・ワトソンのベース、ジェフ・ローバーのバックを務めていたデニス・ブラッドフォードのドラム。
この2人のプレイがゆるい空気ながらタイトなリズムを作り出しています。
「毎日がバレンタイン AH 君に出会った日から」の歌詞でハッピーな気分を盛り上げたと思ったら、コード進行で雲行きがあやしくなる展開に意表をつかれます。
間奏で久野かおりのサックスソロから優雅さを引き出した土岐英史の編曲もうまい。
【2 心奪われて】
イントロの土岐英史のソプラノサックスがすばらしい。
土岐英史と久野かおりは師弟関係があって、「師匠、さすが!」とこのイントロを聴いて久野かおりは言ったに違いない。と勝手な想像をしています。
間奏の山岸潤史による弦に指をひっかけまくるギターの音も絶妙。
【4 Love In The Mist】
1991年のAOR歌謡年間ベスト10に入るイチオシ曲。
松下誠のギターカッティング、随所に仕掛けられたスティーリー・ダン的なねじれたコードワークがミディアム・メロウな楽曲を盛り上げます。
そして何より久野かおりのもの悲しい歌声が曲調にぴったり。
【7 Don't Be Afraid】
作詞・作曲を久野かおり自ら務めた本盤のキーとなる楽曲。
歌い出しの歌詞は「本当の眠りにつく恐さを 赤いワインで鎮めて」。
中盤では「寝返りをうつ夜は バラ色の思いでを繰り返し辿って」。
こうした枕元のブルーな心情を軽やかなリズムに乗せて歌っているのです。
そのあとはこう続きます。
「Gold & White 凱旋門はパリ/Orange & Blue 夢のカリフォルニア」
ブルージーな転調も含めて、どうしても、夜にバブルの思い出を回想しているように聴こえます。
【8 Up To Date】
岡沢章、土方隆行による鉄壁のグルーヴをバックに歌うのはバブル期のOLの生き方。
久野かおりの書いたこんな歌詞が当時の女性のため息を写し取っています。
「パソコンをたたく指が So busy/有能な女子社員よ キャリアガール/Ah.....映し出す画面には 100人目の男の経歴」
【9 Like A Movie Star】
終盤を華やかにするムーディーなバラード。
「カジノ・パーティーの夜に映画スターみたいに恋を演じよう」という令和時代には成り立たないバブリーな世界観がたまらない。
久野かおりってどんな人?
1988年、アルバム「LUNA」でデビューしたシンガー・ソングライター兼サックス奏者です。
3歳からピアノ、小学校4年生からアルトサックスを始め、国立音楽大学付属高等学校に進学。国立音楽大学器楽科サックス専攻科卒業。
ミュージシャンとして現役で活動するかたわら、ピアノ指導などの仕事もしています。
おわりに
今回は久野かおりの「Rosé」を紹介しました。
本盤の魅力は以下の3つです。
- バブル末期のリラックスした雰囲気
- もの悲しさを感じる歌声
- ロゼワインのように芳醇で質の高い楽曲ぞろい
【久野かおり「Rosé」の総評】
※星5つで満点
時代性 ★★★★★
演奏 ★★★★
独創性 ★★
楽曲 ★★★★
歌 ★★★★
すでに廃盤、音楽配信サービスでの配信もない作品なので、聴いてみたい場合は中古盤を探しましょう。