AOR歌謡レビュー

ERIのアルバム「SKIP!」で西海岸の空気を吸おう【シティポップ名盤】

エリ「スキップ」の画像

今回は、ERIこと菅井えりが1986年に発表したシティ・ポップの名盤「SKIP!」を紹介します。

さっそくどんな作品なのか見ていきましょう。

ERI「SKIP!」とはどんな作品?

ERIは大阪府出身のシンガー。

幼少期から合唱、ミュージカルなどに親しみ、10代のうちからスタジオミュージシャンとして活動しました。

のちに「菅井えり」に改名して活動していましたが、2016年12月に55歳で亡くなっています。

本盤「SKIP!」はそのERIのデビュー作です。

新川博のアレンジとシティ・ポップ界隈の一流スタジオミュージシャンが集結したこともあって、全体をとおしてカラッとしたドライな音に仕上がっています。

ERI「SKIP!」の聴きどころ

本盤の聴きどころは次のとおり。

  • 新川博によるウエストコースト風サウンド
  • 高音のサラッとした歌声
  • シティ・ポップ系スタジオミュージシャンによるクールな演奏

詳しく確認していきましょう。

新川博によるウエストコースト風サウンド

本盤のアレンジを担当したのは新川博。

ここでの新川博は全体的にエアプレイ的ウエストコースト風サウンドを設計しています。

とくにキーボードやブラスのアレンジ。このあたりのクールなフレーズにAORの名プロデューサー、デビッド・フォスターの匂いが感じられます。

結果的に新川博のアレンジによって、カラッとした音づくりに成功しているのです。

高音のサラッとした歌声

スローテンポの曲を軽やかに歌いこなすのがERIの特徴です。

テンポが遅いと勢いで歌うことができなくなるため、声を低めにして丁寧に歌い上げる方向に傾きます。

たいていの歌手はこうなると歌が重くなりがちですが、ERIはスローテンポでも高音を維持してドライな質感の歌声を聴かせます。

それゆえに歌が重くならないのです。

シティ・ポップ系スタジオミュージシャンによるクールな演奏

本盤に参加ミュージシャンの一部をあげてみましょう。

  • ジェイク・コンセプション
  • 松原正樹
  • 土方隆行
  • 青山徹
  • 江口信夫
  • 松原秀樹
  • 浜口茂外也
  • 数原晋
  • 木戸やすひろ

シティ・ポップ系のスタジオ・ミュージシャンの名前が並んでいます。

以上の人たちを個別に詳しく紹介していくと途方もなく長くなり本題を逸脱するので控えますが、いずれも80年代のシティポップを牽引した名プレーヤーだといっておきましょう。

「80年代シティポップの名盤」と呼ばれる作品のクレジットを確認すれば、このうちの誰かの名前が見つかるはずです。

彼らがウエストコースト風サウンドのカラッとした音づくりの後ろ盾となっていることは間違いないでしょう。

ERI「SKIP!」全曲解説

ERI「SKIP!」を全曲解説します。

【1 ダンシング・シューズ】

涼しげなコーラスからスタートする「ダンシング・シューズ」から幕開け。

エアプレイの「貴方には何も出来ない」を下敷きにしたハーフタイム・シャッフルなリズムアレンジがスイートな楽曲。

と思わせて間奏で曲調が変わり、「ヒモの切れたダンシング・シューズ」の歌詞にひっかけたのか、タップの音が入るなどひとひねり加えられています。

【2 ガラス越しのビスクドール】

スラップベースとドラムで重めのグルーブからスタートし、ブラスのアレンジがこれまたエアプレイ風。

ERIの歌は低音部・高音部ともに軽やかです。

【3 恋はドーナツショップで】

コーラスも含めて竹内まりやの「もう一度」を明確に意識しているウォール・オブ・サウンドのアレンジ。

ただ、竹内まりやのような低音の重みがないので、ボーカルはまったく違ったテイストです。

【4 SUNSET STREET】

3連のバラード。これも低音で歌っていたら竹内まりや風の2連続になっていましたが、高音でさらっと歌ったことで回避しています。

わずかに緩急がつけられた歌に、夕暮れ時の風を感じさせます。

【5 SUGAR BOY】

ギター中心のウエストコースト風サウンド。

ニコレット・ラーソンのようなイメージで聴けます。

【6 雨のピリオド】

キーボードの静寂なムードからスタートするバラード。

徐々に音が足され、ダイナミックなギターがうなると一気に盛り上がります。

【7 DREAM IS MY DREAM】

シンプルなアレンジがERIのクセのないボーカルを際立たせます。

ただ、間奏のコード進行とラストの音遊びには新川博らしいひねりが。

【8 WITH LOVE】

オールドタイミーなコーラスとウエストコースト風の味付けがうまくまとめられた一曲。

「DREAM IS MY DREAM」からの流れは杏里を思わせます。

これもまた、後半でほんの一瞬だけ仕掛けがあります。

【9 ロンリネス】

イントロでアール・クルーの「Living Inside Your Love」っぽいリフにハードなギターがアクセントで入る緩急のついたアレンジが素晴らしい。

むだな重みが一切ないボーカルも含めて、絶妙な加減で成功している楽曲。

【10 ON THE RADIO】

アレンジは「BE MY BABY」の変化形ながら、木戸やすひろのクールなコーラスが効いた楽曲。

全体的に高音で歌いつつも、後半でアルトボイスもできることを示しています。

おわりに

今回は、ERIこと菅井えりが1986年に発表したシティ・ポップの名盤「SKIP!」を紹介しました。

本盤の聴きどころは次の3つ。

  • 新川博によるウエストコースト風サウンド
  • 高音のサラッとした歌声
  • シティ・ポップ系スタジオミュージシャンによるクールな演奏

【ERI「SKIP!」の総評】
※星5つで満点

時代性 ★★
演奏  ★★★★
独創性 ★★★
楽曲  ★★★
歌   ★★★★

本盤は金澤寿和氏監修による「LIGHT MELLOWシリーズ」としてリイシューが出されましたが、すでに廃盤。

現在、音楽配信サービスでの配信もありません。

気になったら中古盤を探しましょう。

  • この記事を書いた人

kinuzure

人生の大半の時間を中古盤DIGについやしてきたポップスマニア。いまだに大人になれていないクリスタルな四十路男。【来歴】1980年代、幼少期にAORと歌謡曲を聴いて育つ。 海外のAORを数多く聴いていたものの、あるとき「AOR歌謡」を発見。強く惹かれる。【好物】レコード/古本/1980年代/生クリーム/コーヒー/ウィスパーボイス/ディミニッシュコードの響き

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