原田知世の作品中、AOR歌謡的にもっともオススメしたいのが1986年のアルバム「NEXT DOOR」。
後年の颯爽とした雰囲気の歌へとモードチェンジをしていく最初の作品でもあります。
初期のあどけない歌をうたう原田知世と、90年代の北欧路線の原田知世。両方が好きなら必聴の作品です。
原田知世「NEXT DOOR」とはどんな作品?
本盤は1986年6月に発売された原田知世の通算4枚目のアルバムです。
ちょうどこの時期、原田知世は初のライヴツアー「MUSCAT LIPS TOUR」を開催しました。
「早春物語」で主演を務めてから、デビュー以来出演しつづけた角川映画に区切りをつけたのが前年の1985年。
そうした事情からも、1986年は原田知世にとって、俳優活動より、音楽活動に重きを置いた年だといえるでしょう。
それまでは映画一作ごとに音楽も変わっていたのが、本盤を機に原田知世個人の色を強めた作品制作へと移っていったのです。周囲からの指示にしたがって歌うのではなく、主体的な表現をし始めている。
じっさい、原田知世はインタビューで「ターニングポイント」を聞かれてこう答えています。
20歳の頃です。当時、出演した映画『私をスキーに連れてって』は大きなターニングポイントになりました。そして、それをきっかけに『これから自分はどう歩んでいけばいいのか』と考え始めたのも20代でした。歌手としても『演じることとは違う、等身大の自分をもっと表現したい』、そう思うようになったのもこの頃からですね。でも『じゃあ私はどんなシンガーを目指したらいいの?』その答えがなかなか見つからなくて探していました
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『演じることとは違う、等身大の自分をもっと表現したい』という意識が、本盤からもにじみ出ています。
原田知世「NEXT DOOR」の聴きどころ
原田知世「NEXT DOOR」の聴きどころは次の3つ。
- 歌手としての自我への目覚め
- トーンの統一されたダンス・ミュージック
- 秋元康の妙に引っかかる歌詞
ひとつずつ見ていきましょう。
歌手としての自我への目覚め
音楽プロデューサー/ディレクターの吉田格は、前作「パヴァーヌ」のあと、原田知世は「歌手としての自我が芽生えた」と証言しています(ニッポンの編曲家 歌謡曲/ニューミュージック時代を支えたアレンジャーたち)。
たしかに「パヴァーヌ」ではまだ周囲の指示にしたがって歌ってるように感じられました。
本盤は一作として統一された表現になっているので、原田知世本人が曲ごとでなく、全体を通してひとつの表現を貫いたように感じられます。
つまり、主体的に歌っているわけです。歌い分けの意識より、歌手・原田知世の歌をアルバムを通して聴かせる意識が前に出ている。
その点で本盤は原田知世のターニング・ポイントに当たる作品といえるでしょう。
トーンの統一されたダンス・ミュージック
原田知世の作品中、もっともグルーヴが強く、ダンス・ミュージック要素が強いのが本盤です。
本盤のアレンジを務めたのは後藤次利。後藤次利は自身がベーシストということもあり、ドラムやベースのリズムに重きを置いたアレンジが特徴的です。
こうした後藤次利のアレンジによって、本盤はグルーヴが強化され、全曲ダンス・ミュージック要素を濃厚に感じさせる音作りになりました。
「MUSCAT LIPS TOUR」に合わせて、今までよりノリを重視した曲を意識したのでしょう。
また、本盤はトーンが統一されています。
複数の編曲家で作られたアルバムだと、どうしてもトーンのばらつきが出てしまいます。
たとえば、打ち込みでアレンジされた曲と生演奏の曲が混在しているといったことが80年代にはよくありました。原田知世の場合でも、前作の「パヴァーヌ」でA面・B面で編曲家は2人に分けられています。
本盤の編曲家は後藤次利ただ一人のため、トーンが統一されているのです。
原田知世自身も後藤次利の作品を気に入っていたそうで、「パヴァーヌ」以上に楽しんで歌っているのが伝わります。
秋元康の妙に引っかかる歌詞
本盤は秋元康が全作詞を担当しています。
秋元康は一度通り過ぎてから振り返りたくなるような、ちょっとした引っ掛かりのある歌詞を作るのが巧妙です。
たとえば「僕達のジングルベル」の「ジングルベルはまだまだ早い/9月の終わり」という歌詞。何気なく聴いていると、気の早さが引っ掛かります。
さらにこの「まだまだ早い」はその次の曲「アップルティーには早いけど」にシンクロしてしまう。
「葡萄畑の走り方」は、自転車でブドウ畑を走るという内容ですが、「走り方」が引っ掛かる。走り方も何もじっさいブドウ苗の間の道を走る以外の方法はないからです。
「右手で抱いて」も後半に「瞳を抱いて」という歌詞が出てきて、よくわからない。こんなところが妙に引っ掛かります。
原田知世「NEXT DOOR」のオススメ曲
原田知世「NEXT DOOR」のオススメ曲を紹介しましょう。
バックギャモンは負けない
後藤次利によるバキバキのスラップベースがいかついグルーヴを作るイントロ。原田知世のボーカルはクールに入り、サビでやや感情を見せます。
こうした演出は指導を受けて歌ったのでなく、主体的な表現によるものでしょう。
月のリグレット
ベースとドラムのグルーヴが強いシックなカラーの楽曲。
力加減や高音と低音のコントロールが巧みです。
イニシャルを探して
プログラミングと生演奏が交錯する楽曲。
平坦なAメロから、サビでメロウに展開するコード進行が特徴的です。
ウィスパーボイスから入り、サビであどけなさを見せてふわっと着地するのはこの時期ならでは。
僕たちのジングルベル
アルバムのハイライト。「僕たちの」というタイトルにも秋元康感が強く出ています。
語りかけ風の歌い出しから少しの起伏をもってサビのマイナーに入るのが気持ちいい。
よくコードが動く歌メロとドライな歌い方の取り合わせがうまくいっています。
アップルティーには早いけど
モータウンビートを取り入れた楽曲。
躍動的なリズムに肩の力の抜けた歌がフワッと乗り、サビでやや力加減を強め、ほのかなあどけなさを発揮させています。
赤いパンプス
ラストを飾る楽曲。コード進行とアレンジのシンプルさがあどけない自然体の歌の魅力を引き出しています。
おわりに
1986年6月に発売された原田知世の通算4枚目のアルバム「NEXT DOOR」を紹介しました。
本盤の聴きどころは次の3つ
- 歌手としての自我への目覚め
- トーンの統一されたダンス・ミュージック
- 秋元康の妙に引っかかる歌詞
【原田知世「NEXT DOOR」の総評】
※星5つで満点
時代性 ★★★
演奏 ★★★
独創性 ★★
楽曲 ★★★
歌 ★★★
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