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今津真美「Mascara」が「ウドのマヨネーズあえ」と呼ばれる理由|シティ・ポップ名盤

今津真美「Mascara」

今回は「ウドのマヨネーズあえ」として一部のポップスマニアに認識されている今津真美のデビュー作「Mascara(マスカラ)」を紹介しましょう。

30年「ウドのマヨネーズあえ」と呼ばれ続けた作品

なぜ「ウドのマヨネーズあえ」?まず、そこに疑問が湧くはずです。

「ゆでめん」と呼ばれているはっぴいえんどの1stのように、ジャケットにその文言があるわけではありません。

ましてや調理された「ウドのマヨネーズあえ」が写っている、なんてこともありません。

CDジャーナルのレビューで次のように書かれたことがその由来です。

ヴォーカル曲にはかすかにアク抜きされたポップ・ブラック・ミュージック気分が漂っているが、残り5曲の今津によるピアノ・インスト曲になると一転してニューエイジ風だったりもする。どちらも、見事にアク抜きされたウドのマヨネーズあえの味がする。

何が言いたいのかわかりません。けれど、冷やかし半分に書かれた文章だということだけはわかりますね。

出会ったときから「ウドのマヨネーズあえ」だった

本盤のリリースは1989年。

私はリアルタイムで聴いていません。2000年代に知って、中古で入手しました。

情報を仕入れるためにネットで検索するたび、必ず先ほどのCDジャーナルのレビューが引っかかって「ウドのマヨネーズあえ」の文言を目にしていました。

きっと本盤を探し求めている人の多くは同じ道を通ったことでしょう。

今津真美とは何者?

そもそもこの今津真美、何者なんでしょう。

調べるとヤマハのコンクール出身といった情報が出てきますが、資料もなく裏がとれません。

1976年9月19日に開催された「第5回 ヤマハ・ジュニア・オリジナル・コンサート'76」で特別優秀賞を受賞したピアノ奏者に「今津真美」の名は確認できます。

76~79年にかけて同コンテストに連続出場していて、その後ヤマハに所属したことからも同一人物の可能性が高いでしょう。

ただ、作品を聴くかぎり、ピアニスト兼ボーカリストだったことは確かです。

作品数はたった2枚。本盤と翌年リリースの「Silhouette '90」。

私は2枚とも持っているので、今津真美をコンプリートしてしまっています。

むしろアクが強すぎた

「ポップ・ブラック・ミュージック気分」やら「ニューエイジ風」やら、本気でやっていないという見方をされている本盤。しかし、曲のクオリティーはそれなりに高いです。

とはいえ、本盤にはやはりいまひとつな点があります。

それは曲ではなく、今津真美本人の弾く「どう?すごいでしょ!」みたいなピアノ演奏。

どうも演奏技術のひけらかしに感じられてしまうのです。

オープニングを飾る「Mascara」なんか、シティ・ポップ系の一流ミュージシャンがバックを務めただけあって、グルーヴは最高級です。

でも、曲を聴きたいのに今津真美のピアノが前のめり。

やたらソロが長かったり、ところどころむやみに速弾きなんかしたり…。

もしかしたら、本人はピアノトリオでもやりたかったのかもしれませんね。

それだったらこのくらい強めのピアノでも問題なかっただろうに。

5人以上のアンサンブルでピアノが前へ出すぎると、どうしても聴きづらくなります。

つまり、独奏気味の演奏が本盤のマイナスポイントなのです。

ピアノのフレーズにシャカタク的なセンスを感じるだけに、もう少しバックに馴染むバランスで弾いてくれたらな、と残念に思うばかり。

「アク抜きされた」なんて嘘。むしろ「アクの強すぎる」ピアノが前面に出た作品です。

今津真美「Mascara」のオススメポイント

と、さんざんこき下ろしましたが、本盤は曲のクオリティーが高く、聴く価値は十分にある作品です。

聴きどころを挙げるなら、次のとおりです。

  • バックの演奏
  • フュージョン風の音づくり
  • 技術に頼らない自然な歌

詳しく見ていきましょう。

バックの演奏

バックの演奏は申し分ないのです。

  • 鳥山雄司
  • 山木秀夫
  • ペッカー
  • 伊藤広規
  • ジョー・グループ
  • EVE

といった面々が本盤には参加しています。

いずれもシティ・ポップ系の一流ミュージシャンです。

このメンバーで演奏がダメなわけがない。

スラップベースやカッティングなどがフィーチャーされていて、全編にわたってファンキーなグルーブが体感できます。

フュージョン風の音づくり

演奏はファンク寄りですが、今津真美のピアノがシャカタク的なセンスを持ち込んでいます。

両方があわさった結果、音はフュージョンになるわけです。

当時のフュージョンはニューエイジと結びついていました。

CDジャーナルの「ポップ・ブラック・ミュージック気分」と「ニューエイジ風」の2つのタイプがあるというのは、正しくいうと「フュージョン風」です。

フュージョンは「ブラック・ミュージック」も「ニューエイジ」も吸収していたので。

技術に頼らない自然な歌

ピアノを弾かせると技術頼りになりがちな今津真美ながら、歌のほうは技術に頼っていません。

むしろ歌はごく自然。

感情のおもむくままに歌っている感じでとても耳障りがよいのです。

また、歌唱力で押さない歌は、ピアノを含むバックの演奏の音数の多さにも合っています。

今津真美はセンスの人だったわけです(今はどうしているのやら…)。

次の作品「Silhouette '90」はさらにクオリティーが上がります。

今津真美「Mascara」のオススメ曲

今津真美「Mascara」のオススメ曲を紹介します。

  • Mascara
  • Midair Angel
  • Mobile Object

【1 Mascara】

オープニングを飾る表題曲。

EVEによるゴスペル風のコーラスからスタートし、シャカタク風ピアノフレーズが炸裂。

冒頭から濃厚です。

【5 Midair Angel】

グルービーでありつつも重くならない絶妙な一曲。

今津真美のボーカルもサラッとしていていいな、と思ったところでじっとしていられなかったか、シャカタクっとピアノが動き出します。

ここでも間奏あたりからのEVEのコーラスが抜群に良い。

【9 Mobile Object】

シンプルなファンク。

山木秀夫のドラムがバックビートを強め、ブラックミュージック度数も上がります。

ただ、やはり今津真美の弾くシンセだけ突っ走っているのが引っ掛かってしまう。

おわりに

今回は今津真美のデビュー作「Mascara」を紹介しました。

本盤の総評は次のとおりです。

【今津真美「Mascara」の総評】
※星5つで満点

時代性 ★★
演奏  ★★★★
独創性 ★★★★
楽曲  ★★★
歌   ★★★

すでに廃盤、音楽配信サービスでの配信もない作品なので、聴いてみたい場合は中古盤の店やブックオフで探しましょう。

  • この記事を書いた人

kinuzure

人生の大半の時間を中古盤DIGについやしてきたポップスマニア。いまだに大人になれていないクリスタルな四十路男。【来歴】1980年代、幼少期にAORと歌謡曲を聴いて育つ。 海外のAORを数多く聴いていたものの、あるとき「AOR歌謡」を発見。強く惹かれる。【好物】レコード/古本/1980年代/生クリーム/コーヒー/ウィスパーボイス/ディミニッシュコードの響き

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