AOR歌謡レビュー

横山知枝「Bloomin'」で聴ける直感力の高い歌|シティ・ポップ名盤

横山知枝

横山知枝と聞いてピンとくる人は今やあまりいないでしょう。

では「やまかつWINK」といったらどうでしょうか。

「ああ、あの子か」と思う人が一定数いるはずです。

今回の主役は「やまかつWINK」で山田邦子の相方を務め、本家のWINKより歌がうまかったにもかかわらず「やまかつWINK」のイメージから脱却できず表舞台を去った不運な歌手・横山知枝。

その1stアルバム「Bloomin'」(1992年)をご紹介します。

横山知枝「Bloomin'」の聴きどころ

横山知枝は1973年9月9日生まれ、広島県福山市出身の歌手。

1990年にフジテレビの番組「邦ちゃんのやまだかつてないテレビ」にて「やまだかつてないWINK」の山田邦子の相方としてデビューしました。

1991年に同ユニットの「さよならだけどさよならじゃない」がヒット、ソロ活動を開始します。

代表曲の「Happy Birthday」を発表したころ同番組は終了、「やまかつWINK」のイメージを背負ったまま本盤を発表しました。

そのためか、本盤は新たな船出を目指して作られた曲と「やまかつWINKのチエちゃん」を前面に出した曲が混在しています。

そんな販売戦略が錯綜した作品ながら、内容は充実していました。

本盤の聴きどころは次の3つ。

  1. 歌への直感力
  2. 尾崎亜美の名曲揃い
  3. シティ・ポップ系ミュージシャンによる演奏

ひとつずつ見ていきましょう。

歌への直感力

横山知枝は歌への直感力が高い歌手でした。

どの程度の強弱で歌えばいいのか、どう音をつないでいくのか。

こういった答えを直感的に把握していたのでしょう。

本盤に収められた楽曲は、アイドルの歌にありがちな、高音と低音がチグハグになっているといった聴きにくさを回避しています。

直感で歌をなめらかにつなぐ術を心得ていたのです。

尾崎亜美の名曲揃い

本盤には尾崎亜美が5曲を提供。本人も4曲でコーラスアレンジを務め、みずからコーラスで参加しています。

とくに「 X-BOYに気をつけて」は歌いこなすのが難しい曲で、歌いやすさより質の高さを重視したのではないかと思われます。

あるいは、歌手としての横山知枝に期待していたのかもしれません。

横山知枝は作家に恵まれていて、4枚目のシングル「Hey! Baby」は竹内まりやが作詞作曲しています。カップリングの「きっとずっと君が好き」は山口美央子が作曲、アレンジは山川恵津子です。

シティ・ポップ系ミュージシャンによる演奏

本盤に参加したミュージシャンは次の通り。

  • ドラム:青山純
  • ベース:伊藤広規、高水健司
  • ギター:松下誠、松原正樹、今剛、鈴木茂
  • キーボード:佐藤準
  • シンセ:松武秀樹
  • コーラス:下成佐登子、木戸やすひろ、広谷順子、尾崎亜美

レジェンドともいうべきシティ・ポップ系ミュージシャンの大集結です。

本盤が発売された92年は、ギリギリこのようなギャラの高い一流ミュージシャンを集めてレコーディングができた年だったのでしょう。

もう1年あとだったら、実現できなかったかもしれません。

バブル時代ならではの豪華なメンバーによる演奏を味わいましょう。

横山知枝「Bloomin'」のオススメ曲

横山知枝「Bloomin'」のオススメ曲を紹介しましょう。

Happy Birthday

イントロから早くも尾崎亜美節が炸裂。

決して易しくない歌メロを低音と高音をなめらかにつなぐボーカルでうまく歌いこなしています。アレンジは佐藤準。

X-BOYに気をつけて

尾崎亜美作メロウグルーヴの名曲。

一小節半から入るサビなど難易度の高さをものともせず、力加減を心得た歌を聴かせてくれます。

FOR ME

ライトにハネるリズムに最小限の力加減でボーカルを乗せています。

もっとつたないくらいでもいいのに、サラッと歌いこなしてしまっています。

素直になりたいの

イントロの松原正樹&今剛のツインギターカッティングによるファンキーなグルーヴから、Aメロ、Bメロとだんだんメロウに展開。佐藤準のアレンジも絶好調です。

サビの高音に歌心を感じさせます。

ステキな宝もの

モータウンビートの楽曲。

リズムに凝りすぎたアレンジとボーカルのはじけ加減の不足が気になります。

ディレクションの失敗がもったいない。

決心

作曲は尾崎亜美、作詞は夏目純。ということで、岡田有希子「二人だけのセレモニー」のコンビです。

駅で仲間に別れを告げる卒業ソング。

感情の入れ加減がちょうどいい。

おわりに

今回は横山知枝の1stアルバム「Bloomin'」(1992年)を紹介しました。

本盤の聴きどころは次の3つ。

  1. 歌への直感力
  2. 尾崎亜美の名曲揃い
  3. シティ・ポップ系ミュージシャンによる演奏

【横山知枝「Bloomin'」の総評】※星5つで満点
時代性 ★★★
演奏  ★★★★★
独創性 ★★
楽曲  ★★★★
歌   ★★★

本盤は定額制音楽配信サービスでは未配信ですが、amazon musicなどで音源の購入が可能です。

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kinuzure

人生の大半の時間を中古盤DIGについやしてきたポップスマニア。いまだに大人になれていないクリスタルな四十路男。【来歴】1980年代、幼少期にAORと歌謡曲を聴いて育つ。 海外のAORを数多く聴いていたものの、あるとき「AOR歌謡」を発見。強く惹かれる。【好物】レコード/古本/1980年代/生クリーム/コーヒー/ウィスパーボイス/ディミニッシュコードの響き

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