AOR歌謡レビュー

【必聴】宮沢りえ「チポップ」は「ぶっとび」なシティ・ポップ隠れ名盤!

チポップ

今回は宮沢りえが1990年に発表したアルバム「チポップ( Chepop)」を紹介します。

作曲家・古田喜昭の号令で集まったミュージシャンらによって、LAと日本でレコーディングされた本盤は、宮沢りえのウィスパーボイスとも歌い上げともつかない歌がピッタリはまったシティ・ポップの隠れ名盤のひとつです。

宮沢りえ「チポップ」とはどんなアルバム?

女優として、タレントとしての評価が高い宮沢りえ。

しかし、歌手としての評価は高い・低い以前に、ほぼないといっても過言ではありません。

本盤が発売された1990年といえば、宮沢りえにとっての人気絶頂期。

テレビで見かけない日はないくらいの勢いだったにもかかわらず、「宮沢りえ、歌もうたってるな」くらいの見方しかされていなかったのです。

では、それほどまでに地味な歌だったかというと、決してそんなことはありません。

むしろサラッとした地声を活かした個性的な歌で、実はけっこううまかった。

それなのに注目されなかったのは、バブルの頃は俳優・タレントは誰もが歌手デビューするのが当たり前だったからではないでしょうか。

今では適性を見て歌手デビューは判断されますが、バブル期はとにかく売れるなら下手でもなんでもタレントに歌をうたわせよう、というのが業界の不文律でした。

制作費はいくらでもある、とにかく売り出そう、と。

そんな状況下では、先にタレントとして認知されてしまうと、あとで歌手デビューしても本業歌手として認められにくかったのです。

当時の宮沢りえは、ドラマやバラエティーなどテレビ番組に引く手あまたの売れっ子タレント。世間のイメージはそう固定されていました。

だから、あとで歌手デビューしても、本業は「タレント」で副業が歌手といった見方をされたわけです。

つまり、みんな宮沢りえの歌を正面から聴こうとしなかった。

おそらくそれが歌手としての宮沢りえの評価のなさの理由です。

今回は発売時にちゃんと聴かれなかった不運な名盤を紹介していきます。いまこそ、この作品を味わいましょう。

宮沢りえ「チポップ」の聴きどころ

本盤「チポップ( Chepop)」は、シュガーのウェディング・ベルやクリィミーマミの「デリケートに好きして」などのヒットで知られる作曲家・古田喜昭がLAのミュージシャンを集めて作ったアルバムです。

バブル期には、海外レコーディングなんて珍しくはありませんでしたが、本盤は、宮沢りえのウィスパーボイスと歌い上げの中間的な力加減で歌うボーカルが、LAサウンドと相性抜群だったという点で出色の作品でした。

本盤の聴きどころは次の3つです。

  • ウィスパーボイスとも歌い上げともつかない歌
  • LAの一流ミュージシャンによる演奏
  • 古田喜昭によるパステルカラー化された楽曲

ひとつずつ見ていきましょう。

ウィスパーボイスとも歌い上げともつかない歌

宮沢りえは、ウィスパーボイスとも歌い上げともつかない加減で歌います。

ウィスパーボイスにしては力が入っている。歌い上げるにしては力がこもっていない。

そんな絶妙な歌を聴かせる歌手でした。

本盤での宮沢りえの歌について、CDジャーナルはこう書いています。

あまり腹筋を使ってそうにない、りえ唱法は芸風として確立した。

https://artist.cdjournal.com/d/chepop/1290110528

ウィスパーボイスと歌い上げは、ともに90年代に流行った唱法です。

前者はフリッパーズギターやカヒミカリィらの渋谷系、後者はミスチルやglobeなどJPOPのヒット曲に顕著な歌い方でした。

本盤は、ウィスパーボイスに徹すれば渋谷系にカテゴライズされたかもしれません。

あるいは、もっと歌い上げに振り切っていれば90年代JPOPらしい音になっていたはず。

ちょうど双方の間をとるような宮沢りえの歌い方は、ある意味で当時らしいともいえますが、今聴くと時代に左右されていない歌声に感じられます。

LAの一流ミュージシャンによる演奏

本盤のはアメリカと日本でLAの一流ミュージシャンによってレコーディングされました。

主な参加ミュージシャンは次のとおりです。

  • ベース:ボビー・ワトソン
  • ドラム:ジョン・ロビンソン
  • ギター:マイケル・トンプソン

80年代~90年代のLAレコーディング常連のジョン・ロビンソンがやはりここにも登場。

さらに、キーボードに佐藤博の名前もクレジットされているのも見逃せません。

参加メンバーの名前を見ただけで演奏のクオリティは保証済みです。

古田喜昭によるパステルカラー化された楽曲

本盤のプロデュースはボビー・ワトソンですが、宮沢りえにボーカルレッスンをし、LAのミュージシャンを集めたのは古田喜昭その人です。

90年代初頭は軽い打ち込みの音にシンプルな歌メロを合わせたダンスミュージックが台頭したため、80年代のように様々な音を入れてカラフルに色付けした楽曲は好まれませんでした。

本盤もダンスミュージックを意識した音作りになっていますが、そこに古田喜昭はコーラスやアレンジ、そして歌でパステルカラーを持ち込んでいます。

おそらく古田喜昭は、アレンジを担当したボビー・ワトソンに、もっと淡いトーンにしてくれと注文したのでしょう。

LAミュージシャンの得意とするシャープな音の輪郭をぼかして、柔らかい音に仕上げています。

宮沢りえ「チポップ」のオススメ曲

宮沢りえ「チポップ」のオススメ曲を紹介していきましょう。

【2 GAME】

デビッド・ボウイ&ジョン・レノンの「FAME」の替え歌。

バブル期のノリで企画された感が強い楽曲ながら、宮沢りえの歌は空騒ぎ感がなく、むしろ抑制が効いています。

LAミュージシャンの演奏も相まってクールに仕上がった一曲。

【3 MOON SHOOTER】

本盤のハイライトとなる元PAZZの岩田雅之による提供曲。

宮沢りえのウィスパーとも歌い上げともつかない歌の魅力がいかんなく発揮されています。

【4 BODY CHECK】

ややたどたどしいボーカルではあるものの、アルバムの中盤にピッタリのライトな佳曲。

ボビー・ワトソンと古田喜昭による共作。

【5 L.A. BLUE】

メロウなAORバラード。宮沢りえの限りなくウィスパー寄りの歌がハマっています。

間奏で炸裂するマイケル・トンプソンのギターソロもスバラシイ。

【6 DON'T CALL ME BABY】

ここから日本レコーディング編。

ドラムのジョンロビが外れて打ち込みの音に。

Bメロの転調に若干のフュージョン風味があるポップな楽曲です。

作詩が中尊寺ゆつこというバブリーな人選ながら歌詞は派手ではなく、「タイトなドレスは/今日が初めてなの/だけど今日だけは/完璧なレディを演じる」とナイーブ。

【7 TRY ME】

哀愁感のあるコード進行の楽曲なのに、宮沢りえのボーカルはドライに哀愁を打ち消しています。

なお、このあと作詞作曲は富田のドゥーピーズなどで活躍したスージー・キム。

スージー・キム本人のバージョンは、もう少しウィスパーボイス度が高めです。

【8 CHANNEL"M"】

作詩が中尊寺ゆつこだけに「シャネルM」かと思ったら「チャンネルM」でした。

メジャーセブンスで循環する曲調が宮沢りえの歌い癖に合っています。

ただ、ボビー・ワトソンのアレンジがやや手抜きな気が。

宮沢りえのプロフィール

宮沢りえは1973年4月6日、東京都練馬区出身。

ファッションモデルとしてデビューし、1987年、「今度旭丘にリハウスしてきた白鳥麗子です」のセリフが印象的な三井のリハウスのCMで脚光を浴びることに。

1990年、テレビドラマ「いつも誰かに恋してるッ!」に主演。劇中の口癖「ぶっとび」が流行語となります。

1991年、篠山紀信によるヌード写真集「Santa Fe」を発表、150万部超のベストセラーを記録しました。

1992年、貴花田(のちの貴乃花)と婚約するも、翌年に解消。

1995年ごろより表舞台から遠ざかるも、2000年代初頭に本格復帰。以後は映画や舞台で活躍しています。

おわりに

今回は宮沢りえが1990年に発表したアルバム「チポップ( Chepop)」を紹介しました。

本盤の聴きどころは次の3つ。

  • ウィスパーボイスとも歌い上げともつかない歌
  • LAの一流ミュージシャンによる演奏
  • 古田喜昭によるパステルカラー化された楽曲

【宮沢りえ「チポップ( Chepop)」の総評】
※星5つで満点

時代性 ★★★
演奏  ★★★★★
独創性 ★★
楽曲  ★★★★
歌   ★★★

現在、CDは廃盤、音楽配信サービスでの配信もありません。

気になったら中古盤を探しましょう。

  • この記事を書いた人

kinuzure

人生の大半の時間を中古盤DIGについやしてきたポップスマニア。いまだに大人になれていないクリスタルな四十路男。【来歴】1980年代、幼少期にAORと歌謡曲を聴いて育つ。 海外のAORを数多く聴いていたものの、あるとき「AOR歌謡」を発見。強く惹かれる。【好物】レコード/古本/1980年代/生クリーム/コーヒー/ウィスパーボイス/ディミニッシュコードの響き

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