AOR歌謡レビュー

森丘祥子のアルバム「Pink & Blue」は80年代シティ・ポップの隠れた名盤【必聴】

ピンク・アンド・ブルー

今回は森丘祥子の唯一のオリジナルアルバム「Pink & Blue」を紹介します。

80年代終盤の作品にして、ウエストコースト・サウンドにドゥーワップなど、80年代の終わりとともに衰退していった音が味わいつくせる一枚。

いわばシティ・ポップの隠れ名盤です。

森丘祥子「Pink & Blue」とはどんな作品?

本盤が発売されたのは1990年5月。

91年を1990年代のはじまりとすれば、80年代終盤に当たる時期の作品です。

当時といえば打ち込みのダンス・ミュージック全盛期。「セカンド・サマー・オブ・ラブ」と呼ばれたレイヴサウンドが勃興していました。


本盤にはそうした流行と無縁の音作りがなされています。

  • ウエストコースト
  • ドゥーワップ
  • ウォール・オブ・サウンド
  • 歌謡曲的なコード進行の曲

こうした楽曲しか収録されていません。

つまり、思いっきり80年代を引きずった楽曲ばかりで構成されたアルバムだったのです。

どうも製作陣の「80年代を終わらせたくない気分」が充満しているように思えてなりません。

今となってはかえってそれが正解だったともいえますが、当時としては大はずれでした。

本盤はまったく売れていないからです。

売り上げを示す記録こそ残っていませんが、本盤は中古盤の店で見かけることもほとんどありません。

ということはそれほど市場に流通していないのです。

とはいえ時代をまったく無視しているのかというと、そうでもありません。

よく聴くと、90年代初頭に盛り上がった「ガールポップ」ムーブメントとシンクロした部分があります。

☑「ガールポップ」とは90年代に起こった「アイドルっぽい女性シンガー」ブームのこと。代表的シンガーは佐藤聖子、谷村有美など。

ただ、たまたまそうなったのか、「ガールポップ」を射程に入れたのかは不明です。

森丘祥子「Pink & Blue」の聴きどころ

本盤の聴きどころは次の3つです。

  1. 亀井登志夫や和泉常寛の隠れた名曲がある
  2. 透明感のあるボーカル
  3. 音圧高めのシティ・ポップ

詳しく見ていきましょう。

亀井登志夫や和泉常寛の隠れた名曲がある

本盤には主に次の作曲家たちが楽曲提供をしています。

  • 亀井登志夫
  • 和泉常寛
  • 岸正之

なかでも亀井登志夫と和泉常寛の作った楽曲は、傑作の部類に入る出来です。

2人について順番に触れていきましょう。

まず、亀井登志夫。

亀井登志夫は作曲家だけでなくボーカリストとしても活動しています。

というと、「聴いたことないなあ」なんて思うかもしれませんが、実は、多くの人がすでに一度は耳にしているはずです。

小泉今日子「なんてったってアイドル」のコーラスパートの「You're an Idol!」。そう、あれが亀井登志夫の声です。

作曲家としての亀井登志夫は、次のような楽曲を手掛けています。

  • 斉藤由貴「青空のかけら」
  • 松本伊代「バージニア・ラプソディ」
  • 山下久美子「バスルームから愛をこめて」
  • 太田貴子「BIN・KAN ルージュ」
  • 鈴木聖美「It's a 人生」

これらに並ぶ傑作が本盤収録の「Blue Lemon Blue」です。

マイナーコードの使い方が秀逸な楽曲で、イギリス的なセンスを感じさせます。

一方、和泉常寛の作った楽曲は「見えない自転車」と「Pretty In Pink」の2曲。

どちらもオールドタイミーで美しい楽曲で、1980年代後半から90年代へかけて、和泉常寛が絶好調だったことがよくわかります。

透明感のあるボーカル

「90年代ガールポップ」の代表格・谷村有美は「クリスタル・ボイス」と称されましたが、森丘祥子も負けていません。

本盤で高音も低音も濁らない透きとおった歌声を披露しています。

とくに素晴らしいのが終盤の「助手席のダイヤモンド」。

なめらかで透明度の高い、まさにダイヤのようなボーカルがここで聴けます。

楽曲にちなんで「ダイヤモンド・ボイス」とでも命名したいところです。

音圧高めのシティ・ポップ

本盤のレコーディングに使われたのは日音スタジオ(東京都港区赤坂)ですが、LA録音かと思うほど音圧の高い楽曲がいくつかあります。

もっともそれらしいのは「空気みたいなさよなら」。

ウエストコースト・サウンドといわれても疑いようのないくらい音圧が高い上に楽器の音もカラッとしています。

本盤を聴けば、1990年当時のレコーディング技術がいかに上昇していたかも把握できるでしょう。

森丘祥子「Pink & Blue」のオススメ曲

森丘祥子「Pink&Blue」のオススメ曲を紹介します。

【3 空気みたいなさよなら】

本盤のハイライトのひとつ。

音圧高めのウエストコースト風サウンドが味わえます。

コーラスにシティ・ポップ・グループ「JIVE」が参加。作曲は羽場仁志

【4 Blue Lemon Blue】

マイナーなのにマイナー感のないコードワークがみごと。

作曲家としての亀井登志夫のイギリス趣味が強く出た楽曲です。

「無理やりもぎ取る Blue lemon blue」「もう許して もう忘れて Blue lemon blue」など、想像にゆだねる歌詞にそそられる。

【5 冷たい雨】

松任谷由実/Hi-Fi Setのカバー。

イントロから「ドン、ド・ドン」のロネッツ「Be my baby」スタイルにアレンジ。

アレンジもボーカルもうまくいっているけれど、「なぜ1990年にオールドタイムなアレンジでやるのか」の意図が不明だったのが惜しい。

【6 見えない自転車】

タイトルから難解な哲学ソングかと思ったら、「見えない自転車に乗って あなたに会いにいくの」と深い意味もないシンプルな歌詞でした。

ただ、JIVEのアカペラが素晴らしく、あまりうまいとも思えない歌詞でも単純に聴こえません。

【7 Pretty In Pink】

ゲートリバーブのかかったドラムの力か、この楽曲も音圧の高さがウエストコースト風です。

和泉常寛の上質な楽曲にJIVEのコーラスが相性抜群。

「パーティーに着飾って出たのに意中の彼が振り向かない」というバブリーなシチュエーションを背に描かれた「けなげ女子」の心境が時代を感じさせます。

【8 嘘つきなあなたへ】

岸正之の提供曲。ミディアム・グルーヴの同時期の児島未散的な曲調。

Bメロのクリシェで情感に訴え、サビで一瞬だけ哀愁を感じさせるコードがはさまれる作りが功を奏しています。

【9 助手席のダイヤモンド】

これも岸正之の作曲ながら、マイナーコードによる歌謡曲的な哀愁感が強め。

ただ、サビでカラッと晴れるような展開にもっていくのが職人技。

低音部の力加減に森丘祥子の歌のうまさを感じます。

これくらい歌えるのに売れなかったのが惜しい。

森丘祥子のプロフィール

森丘祥子のプロフィールをカンタンに紹介します。

1984年、堀越高校在籍時に「Seventeen」による「ミスセブンティーンコンテスト」で特別賞を受賞。

同年、同じく「ミスセブンティーンコンテスト」でデビューした工藤静香、木村亜希と3人で「セブンティーン・クラブ」を結成。

翌85年に「ス・キ・ふたりとも!」でアイドルとしてデビューします。

ちなみに高校の同級生(1986年卒業生)は次の人たち。

  • 岡田有希子
  • 南野陽子
  • 本田美奈子
  • 長山洋子
  • いしのようこ
  • 倉沢淳美
  • 桑田靖子
  • 宮崎萬純
  • 田中久美
  • 松本友里
  • 永瀬正敏

アイドル時代は本名の「柴田くに子」で活動していましたが、1990年に芸名を森丘祥子に変えてソロ歌手デビュー。

シングル「唇にラズベリー」と本盤「Pink & Blue」を同時にリリースしました。

翌91年には、小西康陽プロデュースのもとにシティ・ポップのカバーアルバム「夢で逢えたら」を発表しましたが、それ以降表立った活動はありません。

おわりに

今回は1990年に発表された森丘祥子の唯一のオリジナルアルバム「Pink & Blue」を紹介しました。

本盤の聴きどころは次の3つ。

  1. 亀井登志夫や和泉常寛の隠れた名曲がある
  2. 透明感のあるボーカル
  3. 音圧高めのシティ・ポップ

【森丘祥子「Pink & Blue」の総評】
※星5つで満点

時代性 ★★
演奏  ★★★★
独創性 ★
楽曲  ★★★
歌   ★★★

本盤はすでに廃盤、音楽配信サービスでの配信もありません。

中古盤の店やブックオフで入手し、ブックレットの飯干恵子のショートショートを読みながら楽しんでください。

  • この記事を書いた人

kinuzure

人生の大半の時間を中古盤DIGについやしてきたポップスマニア。いまだに大人になれていないクリスタルな四十路男。【来歴】1980年代、幼少期にAORと歌謡曲を聴いて育つ。 海外のAORを数多く聴いていたものの、あるとき「AOR歌謡」を発見。強く惹かれる。【好物】レコード/古本/1980年代/生クリーム/コーヒー/ウィスパーボイス/ディミニッシュコードの響き

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