今回は、1989年に発表された真田広之の通算7枚目のオリジナルアルバム「FADED TOWN」を紹介します。
真田広之「FADED TOWN」の3つの聴きどころ
本盤「FADED TOWN」は、ダンス・ミュージックとAORを織りませたアダルトなムードが漂う作品です。
発売のタイミングとしては、ちょうど役柄の幅を広げつつあった真田広之の足取りとリンクしています。
1980年から真田広之は、アクション俳優として活躍するかたわら、歌手活動をスタートさせました。
ただ、俳優業とのイメージの一致をはかったのか、ロック色の強い楽曲が大半を占めていたのです。
本盤ではそのイメージを一転させ、AOR度数の高い楽曲を「演じ」ています。
本盤の聴きどころは次の3つ。
- アシッドジャズとNJSの影響によるダンスビート
- 大人の男を演じきれていない魅力
- エッジの鋭い演奏
確認していきましょう。
アシッドジャズとNJSの影響によるダンスビート
本盤は、のちにSMAPをはじめとしたジャニーズのアイドルに多数楽曲を提供する岩田雅之がプロデュース、アレンジで参加しています。
全体的な音は当時の流行、アシッドジャズ、ニュー・ジャック・スイング(NJS)を反映し、ダンスミュージックとしてパッケージングされています。
デジタルと生演奏がいい具合に溶けあい、そこかしこにギミック的なフレーズが入っているのがいかにも1990年代へ向かう時期の音らしいです。
大人の男を演じきれていない魅力
1980年代の真田広之といえば、時代劇やアクション映画専門の俳優でした。
ラブストーリーでなくアクションがメインだったのがあらわれているのか、歌で大人の男を演じてもまだ色気が足りないように感じられます。
ただ、かえって大人になりきれていないところがクリスタルな魅力を発揮し、「正しくAORしてる」ともいえるのです。
色気がないわけではない。けれど完璧な色気を備えてもいない。
そんな足りなさこそが良いのです。
エッジの鋭い演奏
本盤の音は、表向きアシッドジャズ、ニュージャックスイングを反映したダンスミュージックでありながら、よく聴くとエッジがとがっていることに気づきます。
ただ、それらの音楽を取り入れつつも何かに抗おうとしているようなロックを感じさせる音になっています。
このあたり、プロデューサー・岩田雅之によるものなのか、真田広之自身の意向によるのか考えてみるのもおもしろいでしょう。
真田広之「FADED TOWN」のオススメ曲
真田広之「FADED TOWN」のオススメ曲を紹介します。
【1 I’LL BE THERE】
BPM140の高速ファンク。
後半に兼崎順一のトランペットが入るのがアシッドジャズ風でクールです。
【2 Just Another Love】
アルバムのハイライトとなるミディアムグルーブ。
後半にコードが置き換わって静かながらドラマティックに展開していくのが素晴らしい。
本盤どころか1989年の年間(私的チャート)ベスト10に入る出来といっても過言ではないでしょう。
【3 Shining for you】
ベースとギターで16ビートをガシガシ刻んで、シンプルな楽曲のグルーブを複雑化させています。
間奏のシンセも強烈な印象を残す。
【5 孤独のいたずら】
南佳孝による提供曲。
この楽曲だけ岩田雅之と1987年から1年ほどユニット・PAZZを組んでいた西脇辰弥がアレンジを担当しています。
ニュー・ジャック・スイング色が強いアレンジに南佳孝らしいねじれの効いた歌メロという痛快な取り合わせ。
【10 AS TIME GOES BY】
ラストは「AS TIME GOES BY」のカバー。
クワイエットなムードのバックトラックに、大人の男を演じきれていないクリスタルなボーカルを心ゆくまで味わいましょう。
真田広之ってどんな人?
真田広之のプロフィールにも触れておきましょう。
真田広之は1960年、東京生まれ。
5歳から子役として活躍し、千葉真一主演の「浪曲子守唄」で映画デビューしました。
その後も千葉真一の出演する東映作品で息子役などを演じ、1973年、13歳で千葉真一の立ち上げたJAC(ジャパンアクションクラブ)に所属。
1978年、深作欣二監督による東映作品(映画・ドラマ両方あり)「柳生一族の陰謀」で俳優として本格的な活動を開始します。
このときに、師である千葉真一から芸名の「真」と、本名の前田禎穂から「田」をとった二文字をもらい、「真田広之」と芸名を変更しました。
1980年代は「里見八犬伝」に代表される時代劇やアクション映画を中心とした作品に多数出演しつつ、森永「ウォーキースナッキー」などのCMに出演し、コミカルな演技も見せるように。
1988年には、小泉今日子が主演を務めたコメディ映画「快盗ルビイ」に出演しました。
1993年、野島伸司脚本のテレビドラマ「高校教師」に教師役として主演。女子高生との恋愛、登場人物にふりかかる不幸の連続などが話題になり、真田広之の存在も一般に認知されます。
歌手としては1980年から活動開始。1991年までの間に8枚のアルバムを残しています。
おわりに
今回は真田広之「FADED TOWN」を紹介しました。
本盤の聴きどころは次の3つです。
- アシッドジャズとNJSの影響によるダンスビート
- 大人の男を演じきれていない魅力
- エッジの鋭い演奏
【真田広之「FADED TOWN」の総評】
※星5つで満点
時代性 ★★★
演奏 ★★★★
独創性 ★★
楽曲 ★★★★
歌 ★★★
本盤はCD化されている他、音楽配信サービスでも聴けます。