AOR歌謡レビュー

山下圭志「SHORE BREAK」は愚直なまでに80年代の風景を追い求めたアルバム

山下圭志アルバム用

今回は、山下圭志が2019年に発売した1st.アルバム「SHORE BREAK」を紹介します。

愚直なまでに80年代AOR歌謡/シティ・ポップの風景を追い求めた本盤は立派。

当サイトで取り上げないわけにはいきません。

山下圭志ってどんな人?

まず、山下圭志について触れておきましょう。

私もこの方の素性は詳しく知りません。

たまたま楽曲を聴いて、気になって調べたものの、濃い情報はありませんでした。

愛知県名古屋市出身、9月17日生まれ。年齢は非公開。

PALMTONE(パームトーン)所属のタレントで、インターネットラジオ「fm GIG」で『山下圭志の「KC's BAR」』のDJを務めています。

ベテランと思いきや、歌手デビューは2015年。

これまでに5枚のシングルとアルバム1枚をリリースしています。

山下圭志「SHORE BREAK」とはどんなアルバム?

本盤のジャケットは海辺でアロハシャツを着た本人の写真です。

杉山清貴&オメガトライブの海の見える街の風景や、山下達郎のイラスト、角松敏生の本人が引きで撮られた写真など、シティ・ポップのジャケットは、本人が前面に出ないところに特徴があります。

その意味ではAOR歌謡的なビジュアルイメージだと言えるでしょう。

なお、山下圭志の趣味はサーフィンとのことで、根っから海が好きな人だとわかります。

実際の音を聴いてみましょう。

アルバムは、シティポップ3:AOR歌謡7くらいで割った、歌謡曲感強めな仕上がりです。

リアルタイムで歌謡曲とシティポップの混ざり合った日本の音楽に親しんだ人ならではの感覚が伝わってきます。

シティ・ポップに憧れて作ったというよりは、かつてシティ・ポップを聴きながら見た風景を忠実に再現している。そんな印象を受けました。

山下圭志「SHORE BREAK」の聴きどころ

本盤の聴きどころは次の3つ。

  • 80年代シティポップへの限りない愛情
  • 歌謡曲的な哀愁感
  • 近年少なくなったキザな歌声

ひとつずつ見ていきましょう。

80年代シティポップへの限りない愛情

  • 山下達郎
  • 角松敏生
  • 杉山清貴&オメガトライブ

といった音楽への愛情が、本盤にはギッシリつまっています。

もう、つまりすぎなくらいです。

とはいえ懐かしい音楽を再現しているのではありません。

現在進行形で80年代の音楽を愛してやまない姿勢が痛いほど伝わってくる。

終わりなき青春を追い求めるクリスタルな気分が感じられます。

本盤のキャッチコピーは「 ~それは、波に砕けた夏の日の幻・・・~」。

「幻を愛した」人の記録か、はたまた幻を現実にしようとした人の奮闘記か。聴いて確かめましょう。

歌謡曲的な哀愁感

本盤の歌メロは洋楽志向ではなく、むしろ適度にしっとりしていて哀愁を感じさせます。

作曲家・林哲司は歌メロの「哀愁」についてこう語っています。

僕がオメガで唯一意図的にやったことは、メロディは当時の洋楽的なものであっても、日本人の琴線に触れる哀愁感を音楽的技巧で出すことだったんです。マイナーでもどマイナーにならない、ブルーグレーの色合い感。完璧な青じゃないものが好きな人が当時多かったんじゃないかなと。

杉山清貴&オメガトライブ 35年目の真実 林哲司が作り上げた哀愁サウンドの秘密

本盤もこうした方向を目指したのではないでしょうか。

あえて日本的にするという意図が見えるのです。

近年少なくなったキザな歌声

80年代は、どことなくキザな歌い方をする男性シンガーが溢れていました。

山下圭志の歌声はそうしたニュアンスがあります。意識的にやっているというよりは、自然に身についたのでしょう。

現在、このようなキザな歌い方をする人は稀です。

しかし、80年代AOR歌謡/シティ・ポップの世界観はキザな歌い方でなければ表現できないので、正しいマナーなのです。

山下圭志「SHORE BREAK」のオススメ曲

山下圭志「SHORE BREAK」のオススメ曲を紹介しましょう。

【1 JETTY】

イントロから角松敏生+山下達郎オマージュ。

サビの展開は凝っていて、単純なサマー・ソングになっていないところにこだわりを感じます。

【2 瞳にシャワーレイン】

あまりにもわかりやすい杉山清貴&オメガトライブ(トライアングル・サウンド)へのオマージュ。

「シャワーレイン」という言葉のチョイスも康珍化を思わせます。

【6 パラダイスへ】

これもまた角松敏生オマージュ。イントロの音選びがかなりマニアックで思わず笑ってしまいます。

【8 虹色のパレード】

クラーベのリズムを刻むイントロにカッティングが絡む。

安部恭弘や80年代後半の村田和人を思わせるライトな楽曲。

【9 アリバイのA】

ブルーグレイな哀愁感漂うサマー・サスピションへのオマージュ。

哀愁度を強めるためもう少しテンポを遅くしてもよかったかも。

あきらかに今の時代から離れた歌詞、コード進行なのにパロディ的になっていないのは本気のリスペクトがあるからか。

【10 きらめき】

角松敏生調の歌唱による海岸の湿った風を感じさせる一曲。

音質をあえて落とさずにアナログの質感を出しているのが興味深い。

【11 ハバナ・モヒート】

コパカバーナと昭和50年モノの歌謡曲をシェイクして出来上がったカクテル。

【12 霧雨の夕暮れ】

リズムは「あまく危険な香り」、しかし歌はもう一人のヤマタツ(山本達彦)に接近。

AOR歌謡として見事。

【13 おやすみロンリーナイト】

カッティングとエレピの音が浮遊感を演出する80年代シティ・ポップ再現曲。

ただ、最後のガチャガチャしたギターはない方がよかったのでは。

【16 You're my best friend】

ラストを飾るのはシンプルなワルツ。亡くなった友人へのレクイエムと思われます。

おわりに

今回は、山下圭志が2019年に発売した1st.アルバム「SHORE BREAK」を紹介しました。

本盤の聴きどころは次の3つ。

  • 80年代シティポップへの限りない愛情
  • 歌謡曲的な哀愁感
  • 近年少なくなったキザな歌声

【山下圭志「SHORE BREAK」の総評】
※星5つで満点

時代性 ★
演奏  ★★
独創性 ★★★★
楽曲  ★★★
歌   ★★★

本盤はサブスクリプションで配信されています。

気になったら一聴をどうぞ。

  • この記事を書いた人

kinuzure

人生の大半の時間を中古盤DIGについやしてきたポップスマニア。いまだに大人になれていないクリスタルな四十路男。【来歴】1980年代、幼少期にAORと歌謡曲を聴いて育つ。 海外のAORを数多く聴いていたものの、あるとき「AOR歌謡」を発見。強く惹かれる。【好物】レコード/古本/1980年代/生クリーム/コーヒー/ウィスパーボイス/ディミニッシュコードの響き

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