今回は池田政典が1987年に発表したデビューアルバム「QUARTERBACK」を紹介します。
アニメ「きまぐれオレンジ☆ロード」のオープニング曲をはじめ、「ヤンチャ」と「クール」が同居した楽曲が楽しめる作品です。
池田政典「QUARTERBACK」とは?
1987年当時、芸能事務所「トライアングル・プロダクション」は、オメガトライブ、菊池桃子を次々に当てて活気づいていました。
そんななか、同事務所から次なるヒットを狙うために本盤「QUARTERBACK」で歌手デビューさせたのが、すでに刑事ドラマを中心に活躍していた俳優・池田政典。
歌手としての池田政典は、今までのトライアングル・プロダクションにないアクティブでヤンチャなイメージを売りにしていました。
当時人気絶頂の吉川晃司のように、クールかつスポーティーなイメージのアイドル的な歌手に仕立てようとしていたように思われます。
本盤「QUARTERBACK」は、池田政典の歌手としての名刺のような作品だったのです。
池田政典「QUARTERBACK」の聴きどころ
池田政典「QUARTERBACK」の聴きどころは次の3つです。
- トライアングル・サウンド
- ヤンチャな歌声
- オメガトライブ陣営+NOBODYで武骨さを演出
詳しく確認していきましょう。
トライアングル・サウンド
「トライアングル・プロダクション」および、その代表の藤田浩一が携わった作品は「トライアングル・サウンド」と呼ばれています。
「トライアングル・サウンド」の特徴は主に3つ。
- ローランドの「ディメンジョン」によるエアリーな音
- プログラミングに一部生音を足す音作り
- 声を張り上げないボーカル・スタイル
それぞれ簡単に触れておきましょう。
ローランドの「ディメンジョン」によるエアリーな音
オメガトライブ、菊池桃子らの楽曲は、仕上げにローランドのコーラス・エフェクター「ディメンジョン」がかけられています。
一般的にコーラスをかけると音はゆらゆら揺れますが、「ディメンジョン」は揺れないのが持ち味。
「トライアングル・サウンド」の独特のリゾートドライブのような清涼感あるエアリーな音の秘密は「ディメンジョン」の響きにあったのです。
プログラミングに一部生音を足す音作り
「トライアングル・サウンド」が得意としていたのが、打ち込みのドラムと生のドラムの音を融合させた音作りです。
よくあったのが、打ち込みのドラムで全体を作ってフィルインだけドラマーが叩いているパターン。
現代の制作環境ではPC一台で打ち込みでも生演奏感を出すのはカンタンですが、当時はプログラムされた音は平べったくなりがちでした。
フィルインだけ生身のドラマーが叩くことで、ライブ感や立体感を出そうとしていたのです。
声を張り上げないボーカル・スタイル
藤田浩一は、オメガトライブ時代の杉山清貴に徹底的な歌唱指導をしたとされています。
「声を張るな!抜け!」
と杉山清貴は藤田浩一から言われたと、2021年放送のカセットテープミュージックのほか、方々で回想しています。
このようなボーカルスタイルは「トライアングル・プロダクション」所属シンガー全員に共通、「トライアングル・サウンド」の根幹をなす要素のひとつです。
ヤンチャな歌声
「声を張り上げずに歌う」という藤田浩一メソッドによって、池田政典も先輩の杉山清貴と同じく熱唱はしません。
とはいえ、あきらかに杉山清貴とは歌声のトーンが違います。
「トライアングル・プロダクション」らしく「さわやかさ」を演出していたものの、ややワイルドさがある。
いってみれば「ヤンチャ」な歌声です。
どんな楽曲にもヤンチャさが出ているので池田政典の資質でしょう。
藤田浩一も池田政典らしさととらえ、あえて矯正しなかったのだと思われます。
オメガトライブ陣営+NOBODYで武骨さを演出
本盤の制作はオメガトライブ陣営で固めているようにみえて、実は外部の作家も起用しています。
本盤の顔ともいえる「NIGHT OF SUMMER SIDE」の作曲はNOBODY。
ヒットを狙うなら、トライアングルの人脈では実績のある林哲司や和泉常寛があてがわれるはずですが、なぜNOBODYに依頼したのか。
吉川晃司を視野に入れたのではないでしょうか。
NOBODYは、吉川晃司に提供した「モニカ」「サヨナラは八月のララバイ」などでヒットを飛ばしました。
吉川晃司のようにクールかつスポーティーなイメージで売り出そうとした池田政典には、NOBODYの武骨さのある楽曲が必要だった。
そんな推測ができます。
池田政典「QUARTERBACK」のオススメ曲
池田政典「QUARTERBACK」のオススメ曲を紹介します。
【1 NIGHT OF SUMMER SIDE】
「Linn Drum」とYAMAHAのDX7で打ち込んだa-haの「テイク・オン・ミー」調のリズム。
1曲目から「トライアングル・プロダクション」ブランドの音が飛び出します。
ただ、オメガトライブと違うのはビートルズ的なコーラスにNOBODY色が出ている点。
NOBODY色をそのまま出したのは吉川晃司を視野に入れたと見えます。
【2 Beat of Clash】
シンプルなようで細部に凝った楽曲は林哲司によるもの。
ゲートリバーブを効かせたキック音に親しみやすいリフを入れる船山基紀アレンジが功を奏しています。
【4 SHADOW DANCER】
16ビートのダンス・ミュージックながら、イントロで差し込まれる思い切ったヨナ抜き音階のシンセが絶妙。
船山基紀はCCBの「Romanticが止まらない」の大ヒット以降アレンジが大胆になったようです。
【5 Room Ocean View】
杉山清貴の提供曲。
ヤンチャな歌唱でコントロールしきれていないのが気にかかりますが、音数を増やして歌を包む新川博のアレンジによって楽曲のクールな魅力が守られています。
【6 Quarterback】
高島信二(オメガトライブのギタリスト)の提供曲。
こうして聴くとオメガトライブのメンバーは林哲司から作曲法を学んでいたのがわかります。
コードの動きが細かくないのが林哲司との違い。
【9 LET ME LOVE】
西原俊次(オメガトライブのキーボーディスト)による楽曲。
これもやはり林哲司のマイナーコードの使い方を盗んでいて、林哲司がオメガトライブの教科書になっていた例といえるでしょう。
池田政典ってどんな人?
池田政典は1966年、京都府生まれ。
千葉真一の主宰するJACに所属し、1986年から俳優として活動を開始しました。
刑事ドラマを中心にテレビドラマに出演しつつ、所属事務所「トライアングル・プロダクション」の代表・藤田浩一プロデュースにより、歌手デビュー。
現在は歌手活動を休止し、俳優のほか声優としても活動しています。
おわりに
今回は池田政典が1987年に発表したアルバム「QUARTERBACK」を紹介しました。
池田政典「QUARTERBACK」の聴きどころは次の3つ。
- トライアングル・サウンド
- ヤンチャな歌声
- オメガトライブ陣営+NOBODYで武骨さを演出
【池田政典「QUARTERBACK」の総評】
※星5つで満点
時代性 ★★★
演奏 ★★★
独創性 ★★★
楽曲 ★★★
歌 ★★★
本盤は音楽配信サービスでも配信されています。