AOR歌謡レビュー

増田未亜「HAPPINESS」の牧歌的でファンシーなパステルトーンの世界

増田未亜ハピネス

90年代の初頭、天然のウィスパーボイスを持ち味にした歌で同時代のアイドル歌手のなかでも出色の存在感を発揮していた増田未亜。

今回はそんな増田未亜が1990年に発表した2ndアルバム「HAPPINESS」を紹介します。

増田未亜「HAPPINESS」とはどんなアルバム?

「HAPPINESS」は増田未亜が1990年に発表した2ndアルバムです。

80年代から活躍している奥慶一、京田誠一、林有三の3人が編曲家として参加しています。

1990年といえば、アグレッシブで輪郭のハッキリした音楽が台頭しつつあった時代。

ファンシーでのんびりした雰囲気のアイドルポップを貫いた本盤は、そんな時代の雰囲気から逸脱した作品でした。

増田未亜「HAPPINESS」の聴きどころ

本盤の聴きどころは次の通り。

  • 天然のウィスパーボイス
  • 3人のキーボーディストが競い合うファンシーなパステルトーン

天然のウィスパーボイス

増田未亜は天然のウィスパーボイスの持ち主。楽曲を聴くかぎり、「ウィスパーボイス」を武器にしろと言われてボーカルスタイルを作ったようには思えません。

狙ってできたスタイルではなく、本人のもともとの唱法がウィスパーだったのでしょう。

80年代後半はこうした天然のウィスパーボイスを聴かせてくれる歌手が何人かいました。

90年代以降は渋谷系界隈を中心にスタイルとしてのウィスパーボイスが増えましたが、それをやるなら曲をフレンチポップス風にするのが定番でした。

こうしたシティ・ポップ/AORの色合いを出しつつウィスパーボイスで歌うのは、トレンドとズレてきていたのです。

80年代と90年代を隔てる壁がとっぱらわれた今聴いてこそ、じっくり味わえる歌声ではないでしょうか。

3人のキーボーディストが競い合うファンシーなパステルトーン

本盤は、奥慶一・京田誠一・林有三の3人の編曲家が参加しています。

奥慶一はスペクトラムのキーボーディストとしてデビュー、80年代以降、アニソンやアイドルソングの作編曲で活躍しました。
とくにアレンジを担当した彩恵津子の「デリケーション」は、国内外からシティ・ポップの名盤として高い評価を受けています。ソロ作もブギー方面のファンから支持を集めました。

京田誠一は杉真理のバックを務めた「ザ・ドリーマーズ」のキーボーディストとしてデビュー、杉真理の「HAVE A HOT DAY!」から編曲に携わりました。
アニソンや特撮モノの編曲も多数手がけています。

林有三は角松敏生、山本達彦のバックバンドでキーボーディストとして活躍したあと、多数のアーティストへ作編曲をしました。

本盤はこの3人のキーボーディストがそれぞれ数曲のアレンジを務めています。

そのせいか「誰がいちばん柔らかい音色を出せるか」を競い合うようかのように作られているよう。

結果的に全体としてパステルトーンの作品に仕上がっています。

増田未亜「HAPPINESS」のオススメ曲

増田未亜「HAPPINESS」のオススメ曲を紹介していきましょう。

おしゃべりMoon

ドナルド・フェイゲン「IGY」をカスったイントロからスタート。

歌メロに入ると打ち込みのスウィングビートにアコギの音が重なる。

同主移調のせつないコード進行。ウィスパーボイスにピッタリの楽曲です。作曲は佐藤健。

星くずにKiss

マイナーコードで哀愁感を演出したAOR歌謡。

サビで絡んでくるカッティング、間奏のコーラスの適度な加減が良い。

こうした楽曲は低音で歌い上げるとノンフィクション風になりますが、ファニーなウィスパーボイスで歌うとフィクションになります。

素敵なApril fool

ヴァン・マッコイのハッスルを引用したイントロから転調、歌メロのリズムはエルボウボーンズ&ザ・ラケッティアーズ「ナイト・イン・ニューヨーク」に。

バックコーラスが春風を呼びます。

後半のハーモニックなツインギターは松原正樹か(クレジットなし)。

Spring has come

「ヒヤシンスとスミレがおしゃべりしてたティータイム」。ファンシーな歌詞とウィスパーボイスが好相性。

フワフワしたBメロからサビでモータウンビートになるのが気持ちいい。

100%の瞬間

「青い珊瑚礁コード」パターンのペダルポイントでマイナーが入るAメロからスタート。

Bメロでディミニッシュなどのコードでメロウに展開。

サビはビートルズ的なコーラスをバックにゆるっとした歌へ。

京田誠一の杉真理から学んだセンスが活かされています。

増田未亜のプロフィール

増田未亜は1972年5月6日生まれ、大阪府出身のアイドル歌手です。

幼少期より俳優を目指し活動、1988年にビデオドラマ「地球防衛少女イコちゃん2 ルンナの秘密」に主演。

翌89年に歌手デビューし、シングル9枚とアルバム4枚を発表しました。

2006年のNHK連続テレビ小説「芋たこなんきん」への出演を最後に、活動は途絶えています。

おわりに

今回は増田未亜が1990年に発表した2ndアルバム「HAPPINESS」を紹介しました。

本盤の聴きどころは次の通り。

  • 天然のウィスパーボイス
  • 3人のキーボーディストが競い合うファンシーなパステルトーン

【増田未亜「HAPPINESS」の総評】
※星5つで満点

時代性 ★
演奏  ★★★
独創性 ★★★
楽曲  ★★★
歌   ★★★

本盤はすでに廃盤、音楽配信サービスでの配信もありません。気になったら中古盤を探しましょう。

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kinuzure

人生の大半の時間を中古盤DIGについやしてきたポップスマニア。いまだに大人になれていないクリスタルな四十路男。【来歴】1980年代、幼少期にAORと歌謡曲を聴いて育つ。 海外のAORを数多く聴いていたものの、あるとき「AOR歌謡」を発見。強く惹かれる。【好物】レコード/古本/1980年代/生クリーム/コーヒー/ウィスパーボイス/ディミニッシュコードの響き

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