2021年から昭和・平成レトロブームが続いています。
上白石萌音が昭和歌謡カバーを発表したり、米津玄師がレトロ感を強く意識した「POP SONG」を発表したりと、懐かしさをエモさとして伝える楽曲が増えてきました。
今回はポップスマニアの私がレトロなものに惹かれる人のために、1980年代前半のポップス界隈の"ひそかなトレンド"だったエモすぎる「チャールストン歌謡」を紹介します。
チャールストン歌謡って何?
チャールストン歌謡とは、1980年代に"ひそか"に人気を誇った歌謡曲のスタイルの一つです。
1920年代にアメリカで流行したダンスのための音楽「チャールストン」をベースに作られました。
チャールストンは、4拍子で1拍目と2拍目の裏を強く打つリズムが特徴的な音楽。
ちなみに20年代当時のチャールストンは2ビートが主流で、次第にスイングビートに置き換えられていきました。
そんなチャールストンのリズムを取り入れた歌謡曲が「チャールストン歌謡」です。
説明するより実物を聴くのがはやい。
ということで、さっそく紹介していきましょう。
チャールストン歌謡10選
1980年代のチャールストン歌謡から、傑作を10曲選びました。
TUBE「センチメンタルに首ったけ」
TUBEのセカンドシングルのタイトル曲。典型的なチャールストン歌謡です。
デビューシングルの「ベストセラー・サマー」も似たリズムですが、「センチメンタルに首ったけ」のほうがリズムのアクセントがよりチャールストンらしいといえます。
アレンジを担当したのは、ビーイングのボス・長戸大幸。
クールでオシャレな夏のリゾートソングで人気だったオメガトライブとの差別化を狙ったのでしょう。
チャールストンのリズムにすることで、いなたさを演出しています。
The Good-Bye「モダンボーイ狂想曲」
現在は浜崎あゆみのギタリストとして活動するヨッちゃんこと野村義男ひきいるバンド「The Good-Bye」。
その3枚目のシングル曲「モダンボーイ狂想曲」もチャールストン歌謡の傑作です。
「失恋のカラ元気」を表現するのにチャールストンスタイルはピッタリだったと改めて実感。
竹本孝之「俺たちのストリート」
年齢を重ねた今ではダンディーな魅力を発揮している竹本孝之。
イントロで「甘ったれんじゃないよ」のセリフを決めるチャールストン歌謡の隠れ名曲です。
大空はるみ「男5分5分女5分5分」
「森野多恵子」「Tan Tan」「大空はるみ」の3つの名前を持つことで知られた歌手の1983年のアルバム「VIVA」より。
1960年代のグループサウンズのリスナーには、「森野多恵子」で認識されていることでしょう。
寺尾聰も所属していたGSバンド「ザ・ホワイト・キックス」のボーカリストだったから。
1970年代には20代でアメリカへ渡って音楽を学び、1972年にTan Tan名義でソロデビューしています。
この時代はフォーク色が強かったので、フォークのリスナーには「Tan Tan」として知られているはず。
そして1980年代には「大空はるみ」名義となり、加藤和彦プロデュースのもと、2作品をリリースしました。
そのため、シティ・ポップのリスナーからはもっぱら「大空はるみ」として知られています。
打ち込みメインのファンカラティーナ・テイストのアルバム「VIVA(1983年)」から、明確なチャールストン歌謡をどうぞ。
スージー・松原「ガンモ・ドキッ!」
松原みきがスージー松原の変名で歌うアニメ「Gu-Guガンモ」主題歌。
クラーベのリズム要素が入っていますが、ブロードウェイミュージカル調のオープニングの絵を見る限り、制作側はチャールストンを狙ったのでしょう。
サザンオールスターズ「東京シャッフル」
サザン初期の傑作のひとつ。レトロ感を狙っても古めかしさを感じさせないところに桑田佳祐のセンスが光ります。
その秘密は歌メロの乗せ方にあり、Bメロの頭で「zu zu zu」と3連符を入れるなど、当時としてはかなり攻めた仕掛けをしています。
「シャッフル」とタイトルがついていて中身はチャールストンなのは、歌謡曲によくある「ブルースというタイトルでブルースではない」といったパターンに習ったのでしょう。
沖田浩之「お前にマラリア」
イントロがロカビリー、Aメロからリズムがチャールストンに。
色々な意味でやばい楽曲。
大々的に放送禁止歌になっていないものの、おそらく今では放送できないでしょう。
堀ちえみ「ルージュの海」
堀ちえみの10枚目のアルバム「glory days」に収録された楽曲。
典型的なチャールストン歌謡で、作曲は芹澤廣明あたりと思いきや、意外にも元スターダストレビューの三谷泰弘でした。
確かにこの端正なまとめ方は三谷泰弘の作風といえば頷けます。
風見しんご「Hollywoodスペシャル」
チャールストン歌謡らしいイントロからスタート。
そこからツイストのリズムに展開します。
バックに絡むブラスやサビ、インスト部分に強くチャールストンを感じます。
大野方栄「やせろ!チャールス豚3世」
歌っているのは、「ひらけ!ポンキッキ」の歌で80年代の子供たちに藤本房子と並んで親しまれた歌手・大野方栄。
リズムがディキシーランド・ジャズ的なものの、ダンスを含めてチャールストン歌謡らしさは十分です。
チャールストン歌謡に似たもの
限りなくチャールストン歌謡に近いけれど、ちょっと違うという微妙な楽曲もあります。
3曲ほど紹介しておきましょう。
田原俊彦「チャールストンにはまだ早い」
もっともチャールストン歌謡ではないかと思われやすい楽曲ですが、リズムはチャールストンではありません。
これは「ベニーグッドマン歌謡」とでもいうべきもの。
つまりチャールストンと言うには「まだ早い」と言わせるリズムで、それを狙ってあえてズラシたのでしょう。
中原理恵「風が吹いたら恋もうけ」
これも「ベニーグッドマン歌謡」かディキシーランド・ジャズ歌謡でしょう。
ただ作者が大瀧詠一だけあって、一筋縄ではいかない仕掛けが満載です。
川島なお美「BE BOP CRAZY」
冒頭の歌詞で「チャールストン」が出てきますが、リズムはチャールストンではありません。
作曲はNOBODYの2人。
NOBODYは、桑田靖子の「僕たちのRun away」も同テイストに仕上げていて、彼らとしてはチャールストンにしたかったのかもしれません。
編曲の新川博にはその意図が伝わらなかった可能性が考えられます。
少女隊「もっとチャールストン」
サビは確かにチャールストンですが、イントロからBメロはチャールストンというよりはディキシーランド・ジャズ歌謡。
それでもディミニッシュ・コードがメロウに絡んでくるのBメロは秀逸です。
2000年代以降のチャールストン歌謡
90年代に入るとチャールストン歌謡は廃れていきましたが、2000年代に「進化型」と「原点回帰型」の2つのタイプでよみがえりました。
EGO-WRAPPIN'「くちばしにチェリー」
チャールストン歌謡を時代に合ったビートへと進化させた名曲。
ドタドタした特徴的なリズムにレトロな雰囲気を融合させたのはちょっとした「発明」でした。
90年代に「渋さ知らズ」など、アングラ系のジャズではこうしたリズムを耳にしましたが、オーバーグラウンドで試して成功したのはEGO-WRAPPIN'がはじめて。
以降、このスタイルはJ-POPでも定着し、近年はAdo「レディメイド」、アイナ・ジ・エンド「ZOKINGDOG」といった楽曲に受け継がれています。
ORESAMA「cute cute」は近年最高のチャールストン歌謡
80年代の音楽をベースにした楽曲が持ち味のトラックメーカー・小島英也とボーカルのぽんによるユニット「ORESAMA」。
彼らのアルバム「Hi-Fi POPS」(2018年)に収録された「cute cute」は、1920年代のチャールストンを再現した2ビートのレトロな楽曲でした。
原典にここまで忠実なチャールストン歌謡は 80年代にもなかったはず。
おわりに
今回は、1980年代前半のポップス界隈の"ひそかなトレンド"だったエモすぎる「チャールストン歌謡」を紹介しました。
80年代チャールストン歌謡の傑作は次の10曲です。
- TUBE「センチメンタルに首ったけ」
- The Good-Bye「モダンボーイ狂想曲」
- 竹本孝之「俺たちのストリート」
- 大空はるみ「男5分5分女5分5分」
- スージー・松原「ガンモ・ドキッ!」
- サザンオールスターズ「東京シャッフル」
- 沖田浩之「お前にマラリア」
- 堀ちえみ「ルージュの海」
- 風見しんご「Hollywoodスペシャル」
- 大野方栄「やせろ!チャールス豚3世」
80年代レトロの魅力の詰まったチャールストン歌謡を今こそ聴きましょう!