AOR歌謡レビュー

AMYの1stアルバムは80年代の「クリスタル」な感覚が詰まったシティポップ名盤

エイミー シティポップ

長らく入手しづらい状態だった1983年発表のAMY(エイミー)の1stアルバム「AMY」。

ポップス・マニアにはよく知られたプレミア盤でしたが、世界的なシティポップ・ブームをうけ、2021年にレコードとCDでリイシューされました。

とはいえそこまで話題になっていないようなので、また埋もれないようここで紹介します。

AMYの1stアルバムってどんな作品?

本盤は1983年に松原正樹プロデュースによって制作されたAMYの1stアルバム。全曲のアレンジも松原正樹が務めています。

AMYは、本盤1曲目に収録された「瞬間少女」でデビューした女性シンガー。わかっていることはそのくらいで、出自の一切が謎に包まれています。

AOR/シティ・ポップに詳しい音楽ライター・金澤寿和ですら次のように書いているほど。

今でこそ “シティ・ポップ・アイドル” なんて呼び方をされたりするが、実は未だに正体がよく分からない…。

http://lightmellow.livedoor.biz/archives/52336271.html

プロフィール情報が一切ないため、何者だったのか把握している人がもはやいないのです。

本盤に楽曲提供している滝沢洋一が80年代に経営していたピザ屋の名前が「AMY'S」だったので、AMYの由来がそれと関係があるのかないのか…そのあたりでもモヤモヤします。

本盤はウエストコーストを匂わせるブリージーな音に仕上がっているところから、杏里の路線を狙おうとしたように思えますが、セールス的には不発に終わっています。

シティ・ポップのマニアだけに注目され、「中古レコード市場で5万円以上の高値がつく作品」として語り継がれてきました。

AMYを知っているかどうかでシティ・ポップ通かどうかがわかる。そんなリトマス紙的な作品だったのです。

そんな稀少盤がなんと2021年、世界的なシティポップ・ブームの影響でレコードとCDでリイシュー。

「いつか聴いてみよう」なんて思っているとすぐ廃盤になるかもしれないので、興味のある方は早めに入手しておくといいでしょう。

AMYの1stアルバムの聴きどころ

AMYの1stアルバムの聴きどころは次の3つ。

  1. クリスタルな世界観
  2. パラシュート周辺のミュージシャンによる演奏
  3. 編曲家としての松原正樹の仕事ぶり

ひとつずつ見ていきましょう。

クリスタルな世界観

大人の生活に憧れつつも、心は無垢なままでいたい。そんな生き方・あり方は1980年代初頭に「クリスタル」と呼ばれました。

本盤に漂っているのは、まぎれもなく「クリスタル」な世界観です。

たとえばオープニング曲「瞬間少女」の次のような一節。

シャネルを着こなせる/女にあこがれて/アンニュイ気取ってたけど

ワンフレーズで「大人に憧れる無垢な少女」が見えてきます。

あるいは「Mr. Cool」の中のこんな歌詞。

部屋にはバラを飾ったし/ロゼのワインも冷えてるわ

ここにも背伸びして都会の大人を気取る少女が描かれています。

本盤を聴けば、1980年代という時代の空気が感じられます。

パラシュート周辺のミュージシャンによる演奏

本盤には次のようなミュージシャンが参加しています。

  • ギター:松原正樹
  • ベース:長岡道夫/美久月千晴/マイク・ダン
  • ドラム:島村英二/菊地丈夫
  • キーボード:佐藤準/山田秀俊/奥慶一/新川博
  • パーカッション:斉藤ノブ
  • サックス:ジェイク・H・コンセプション
  • フリューゲルホルン:数原晋
  • コーラス:マイク・ダン/ケイシー・ランキン/ジョン・スタンリー/山田秀俊/鈴木浩/田口俊

松原正樹が在籍したフュージョン・バンド「パラシュート」のメンバーや、その周辺にいたミュージシャンが集まっているのです。

そのため本盤はポップな音作りのようでありながら、要所要所にフュージョン色があらわれています。

編曲家としての松原正樹の仕事ぶり

松原正樹は日本を代表する一流ギタリストとして知られていますが、80年代は黒住憲五や児島未散らの編曲でも腕を振るっていました。

そもそも松原正樹は、「ネム音楽院」で音楽理論から編曲まで学んだ音楽的素養が完璧な人。その上、大村雅朗をはじめとする多くの編曲家と一緒に仕事をしていて、現場での経験も豊富です。

本盤は松原正樹の編曲のセンスが発揮された味わい深い作品。

固まった設計図を作らず、まずスタジオでおおまかな指示のもとセッションをし、そこからテイクを重ねて音を足し引きする。そういった手順で作った形跡が、ほとんどの曲から見て取れます。

松原正樹本人もギターで参加しているので、編曲の要はギターを入れるか省くかの判断だったに違いありません。

なにしろ松原正樹のギタープレイといえば「楽曲を適切な音色で彩る」が特徴なのだから。

そんな本職・演奏家による至高の音作りのセンスが本盤には詰まっているのです。

AMYの1stアルバム全曲解説

AMYの1stアルバムに収録された作品を全曲解説していきます。

瞬間少女

「シャネルを着こなせる/女にあこがれて/アンニュイ気取ってたけど」とクリスタルな世界観を前面に出した黒住憲五提供によるシングル曲。

アレンジを固めて作られたというより、スタジオに集まったメンバーに口頭で伝えてセッションした音に感じられます。

デビューシングルにもなったのに肩ひじ張った仕上がりになっていないのは、松原正樹が本職の編曲家ではなくスタジオ・ミュージシャンだったからかもしれません。

Lover's Fairy Tales

モティーフはノーランズの「Gotta Pull Myself Together(恋のハッピー・デート)」。

バックに松原正樹のギターとマイク・ダンのコーラスが入ることで、ノーランズよりもウエストコースト・サウンドのニュアンスが強くなっています。

AMYの歌い方はキャンディー・ポップ風でなくアルト寄りで、背伸びした感じが、ああ、クリスタル。

雨色のスクリーン

AMYみずから作曲を手がけた作品。作詞は田口俊。

「濡れた舗道はまるで/ぼやけたスクリーンみたいね/逆さに映る/街路樹の影をゆらして」と雨の風景に光を見出しているのが田口俊らしい。

松原正樹の特徴である柔らかい単音カッティングの音も聞きどころです。

Mr. Cool

松原正樹のスティーヴ・ルカサー/ジェイ・グレイドン的リードギターからスタート。

歌い出しの「部屋にはバラを飾ったし/ロゼのワインも冷えてるわ」のクリスタルな歌詞が印象的です。

サビの「Mr. Cool」のコーラスで清涼感を出そうとして熱気が出ているのがおもしろい。

25時

松原正樹の楽曲。

マイナーとメジャーのニュートラルなAメロから、サビのギターリフっぽい歌メロを聴くと納得します。

Weekend Theatre

作曲は名盤と名高い「レオニズの彼方に」を残している滝沢洋一。

シンプルな4コード進行ながら、ラウドなギターがウエストコースト感を醸し出しています。

Party Night

本盤のハイライトかつシティ・ポップの名品。

これも作曲は滝沢洋一が手掛けています。

手数少なめに楽曲をキラッと光らせる松原正樹の真骨頂ともいうべきギタープレイも聴きどころです。

Tonight

AMYみずから作曲を手がけた作品。カレン・カーペンター的な歌いまわしをしているところから、A&Mレコードの世界観を目指していたように思えます。

それならストリングスをフィーチャーしたアレンジにしたほうがよかった気がします。

本盤には加藤アンサンブルが参加しているので、この曲でも加藤JOE率いる「JOEグループ」が使えたはず。

Dance In Dream

松原正樹のパーカッシブな単音カッティングがグルーヴの中心になった楽曲。

カッティングのニュアンスは、本盤発表の前年にあたる1982年に発表された山下達郎の「FOR YOU」を意識したようにも。

Graduation

ラストを飾るAMYみずから作曲を手がけたバラード。

卒業式を控えた少女の恋心を描いていて、「大人っぽいシティ・ライフ」を歌った作品の多いアルバムのなかでは一見して異色です。

しかし、「大人に憧れつつ無垢なままでいたい」クリスタルな心情を反映させているという意味では、アルバムの世界観から外れていません。

おわりに

今回は1983年発表のAMY(エイミー)の1stアルバム「AMY」を紹介しました。

【AMY「AMY」の総評】
※星5つで満点

時代性 ★★★★★
演奏  ★★★★
独創性 ★★
楽曲  ★★★
歌   ★★★

本盤はCD・LPがタワーレコード限定盤として発売されています。

気になったら入手してみましょう。

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kinuzure

人生の大半の時間を中古盤DIGについやしてきたポップスマニア。いまだに大人になれていないクリスタルな四十路男。【来歴】1980年代、幼少期にAORと歌謡曲を聴いて育つ。 海外のAORを数多く聴いていたものの、あるとき「AOR歌謡」を発見。強く惹かれる。【好物】レコード/古本/1980年代/生クリーム/コーヒー/ウィスパーボイス/ディミニッシュコードの響き

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