AOR歌謡レビュー

青野りえ 「Rain or Shine」で聴く雨と光の物語|シティ・ポップ名盤

青野りえ

2022年に発表されたシティ・ポップの中で最も「風景」と「物語」の力が強い作品。

青野りえの2ndソロアルバム「Rain or Shine」はそんなハイクオリティーな仕上がりでした。

今回はポップスマニアの私が「Rain or Shine」の魅力を探っていきます。

青野りえ 「Rain or Shine」とはどんなアルバム?

「Rain or Shine」は、2017年の1stアルバム「PASTORAL」から5年を経て発表された青野りえの2ndソロアルバムです。

前作と同様にプロデュースは関美彦。

バックを務めるミュージシャンたちも、関美彦プロデュースの「WAY WAVE」や広瀬愛菜といったアイドルのレコーディングに参加したメンバーです。

ドラムはクニモンド瀧口率いる「流線形」や柴田聡子のバックバンドで活躍する北山ゆう子。

ギターはこれまた「流線形」の山之内俊夫です。

ベースは90年代末から活動するシティポップ・バンド「benzo」のベーシスト・伊賀航が担当しています。

キーボードは「Lamp」の1stに参加、近年ではNegiccoの楽曲制作も手掛ける長谷泰宏。

このように関わった人たちを列挙しただけでも察しがつくでしょう。70年代(あるいは90年代後半~2000年代前半)のフォーキーなシティ・ポップの音が聴ける、と。

本盤はその期待通り、いやそれ以上の作品に仕上がっています。

青野りえ 「Rain or Shine」の聴きどころ

青野りえ 「Rain or Shine」の聴きどころは次の3つ。

  1. アルバムとしての物語
  2. 中間色のグレイッシュな楽曲
  3. 一聴してリラックスムードに包む歌

ひとつずつ見ていきます。

アルバムとしての物語

本盤は1曲ごとに聴くのではなく、通して聴くように作られています。

1曲目を受けての2曲目、2曲目の流れで意味をなす3曲目といったぐあいに。

そう聴いてアルバムとしての物語が見えてくるように作られているのです。

本盤の「Rain or Shine」とタイトルはシンプル。ただ交互に来る雨と晴れのイメージは単純ではありません。

陽射しのまぶしさというよりは微かな光。それに照らされる水の揺らぎ。

こうしたごく静かな風景をとらえています。

中間色のグレイッシュな楽曲

本盤に収録された楽曲はすべて極端な明るさを避けた音づくりに統一されています。

関美彦のメジャーセブンスを多用した白黒コントラストのハッキリしていない曲調。それが歌詞と一体化し、フィルターがかったグレイッシュで中間色的な音に仕上がっています。

今は亡き菊地陽子とのユニット「バターフィールド」でウエスト・コーストAORフレーバー全開の「横顔」を90年代に発表して以来、関美彦の作曲センスの高さは「WAY WAVE」の「SUMMER GIRL」などでも発揮されていました。

今回はその集大成ともいうべきハイクオリティーの曲揃い。

世界的なローファイブームを受けてか、音質をザラっとさせているのも中間色的な色合いに拍車をかけています。

大貫妙子の70年代3部作の音に近づけた佐藤清喜のマスタリングも極めて的確。シティ・ポップの醍醐味はこのようにグレイッシュな色合いだと改めて思わされます。

一聴してリラックスムードに包む歌

2000年代に下北沢のモナレコードで聴いた青野りえの歌はもっとR&Bシンガーらしいチェストボイスの歌だったと記憶しています。

前作「PASTORAL」でもその名残は感じられました。

本盤での青野りえの歌は音圧を徹底的に排除しサラッとしています。

歌唱力で畳み掛けられる人が、あえてそうしない選択をしたように思われます。

しっとり歌うとか、肩の力を抜いて歌うとかいったリラックスを演出した歌ではなく、バイオリズムに逆らわないどこまでも自然な歌だからこそ、聴き手はリラックスムードに包まれるのです。

青野りえ 「Rain or Shine」全曲解説

青野りえ「Rain or Shine」の収録曲をすべて解説しましょう。

  1. Waiting for you
  2. Rain Rain
  3. Blue Moon River
  4. 九月の水
  5. Rainbow in your eyes
  6. エンドロール
  7. 雨に唄えば
  8. ラストシーン
  9. 片影
  10. 夜明けのダンス

Waiting for you

「夜と朝の間の白い月に見る夢と/熟れた桃色に染まる黄昏に変わる日よ」

歌い出しから「Shine」がまばゆい光ではなく微光だとわかります。

「Waiting for you」のリフレインが淡い光に重なっていきます。

Rain Rain

ギターカッティングとシンセによるグルーヴにソフトなコーラスがアーベイン。

後半にリズムがサンバに変わるアレンジも秀逸です。

街の灯りを見ながら雨の路地を歩く。

感情を抑えて風景を描写するシティポップ・マナーに則った曲。

Blue Moon River

2曲目からギターカッティングがつながってさらにメロウなイントロからスタート。

「Rain Rain」で近くに見えていた街の灯りが遠ざかり、三日月の下の舟で水面に映る。

それらが「ヘッドフォンから押し寄せる」と歌われるところから、「ティファニーで朝食を」の「Moon River」が風景として重ねられているようにも。

九月の水

3拍子が雨音の規則的なリズムを想起させる曲。

「揺れる花に落ちる水」とスローモーションの世界が優雅です。

Rainbow in your eyes

4曲目の「九月の水」を受けて、イントロで4拍子と3拍子のリズムがクロス。

佐藤博風のエレピの入れ方から、「流線形」も引用した吉田美奈子の「レインボー・シー・ライン」からのイメージと受けとれます。

エンドロール

マイナーコード で微量の歌謡曲フレイバーを加えたB面スタート感の強い曲。

「雨が通り過ぎる頃に/窓に書いた手紙流れ落ちる」と歌詞もAORらしい溜め息色。

後半の大貫妙子的なコーラスが流れ落ちるイメージを補強します。

雨に唄えば

レコードノイズが入った緩やかなスイングビートのイントロからスタート。

「雨が降ったらあの店で/傘の雫が落ちるまで休もう」の歌詞から察するに舞台は雨宿りの喫茶店でしょう。

「九月の水」「エンドロール」と、雨水が流れ落ちるイメージが続いています。

ここでも「あの日のレコード」と曲中の人物が音楽を聴いている設定。

ジーン・ケリーのように雨の中を歩くのではなく、窓の向こうの雨を見ています。

ラストシーン

やっと陽射しのまぶしさが出てきます。

この曲の設定は夏。

当然陽射しは強いわけですが、それでも夏の終わりの日没時の眩しい光と、光のまばゆさをブルーな感情と結びつけています。

片影

アコギ一本で語られる夕方の風景。

よく聴くとバックにザーッとノイズが入っています。

「ラストシーン」からさらに黄昏が深まり、夕陽に伸びた影を踏みながら「あなた」を想う。

ここでアンサンブルを引いたのが効いていて、光によって照らされた影が鮮やかに浮かび上がります。

夜明けのダンス

TR-808のリズムマシンに乗せて早朝の静かな風景を描写。

「あかるい街の灯/なんだか増えたね/たのしい言葉で明日を照らして」

1曲目でリフレインされた「Waiting for you」に呼応するように「Dance to the music」が繰り返されます。

ダンスするのは人か、はたまた光や雨か。両方に聴こえるのが味わい深いです。

おわりに

今回は青野りえの「Rain or Shine」を紹介しました。

本盤の聴きどころは次の3つ。

  1. アルバムとしての物語
  2. 中間色のグレイッシュな楽曲
  3. 一聴してリラックスムードに包む歌

【青野りえ「Rain or Shine」の総評】
※星5つで満点

時代性 ★★★
演奏  ★★★★
独創性 ★★★
楽曲  ★★★★★
歌   ★★★★★

本盤は音楽配信サービスでも聴けます。

気になったら一聴を。

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  • この記事を書いた人

kinuzure

人生の大半の時間を中古盤DIGについやしてきたポップスマニア。いまだに大人になれていないクリスタルな四十路男。【来歴】1980年代、幼少期にAORと歌謡曲を聴いて育つ。 海外のAORを数多く聴いていたものの、あるとき「AOR歌謡」を発見。強く惹かれる。【好物】レコード/古本/1980年代/生クリーム/コーヒー/ウィスパーボイス/ディミニッシュコードの響き

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